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ムスッと瑠璃と愛菜の会話を聞いている妖平は、もはやいちいち口を挟むのを止めて黙っている。
やがて涼んで体の熱を冷ました愛菜は、着替えのために二回の部屋へあがって行った。
「なんだ?」
「別に」
怪しい微笑みを浮かべながら妖平に視線をやって瑠璃が言うと、いつの間にかボケッと瑠璃を見詰めていた妖平は慌てて視線を逸して無愛想に言った。
「良い姉だな。お前が羨ましい」
そんな妖平の様子を見ながら瑠璃は言う。
「私にも姉は居るが、アレ達はあんな風に私に接したりはしない。無論私もお前の様な振る舞いをアレ達にはしない。いや、許されない」
長くて扇の様に見事に広がる睫毛の影が、瑠璃の目元を暗くした。
「なんで?」
姉の事を《アレ》という瑠璃に、僅かな憂いの気配を悟り妖平は訊く。
「それは知らぬ。アレ達は私が何を聞こうが応えてはくれぬから」
瑠璃は瞬きもせずにそう言うと、ふうと小さなため息を吐いた。
「あんなウザい姉貴よりはマシなんじゃね?」
何かと口を挟んだり、数日帰って来なかったり、そんな自由奔放な愛菜より、もっと干渉しない姉が良かったと妖平は一瞬そう思った。
「だが愛菜殿は帰った」
「…………?」
瑠璃の言葉の真意を、妖平はすぐには理解出来なかった。
「安心したろう」
瑠璃が言葉を足すと、妖平はハッとする。
(帰って来てくれって……思った)
何だかんだ言っても大切な家族なんだなと妖平は実感した。
「私には助けなどない」
瑠璃はふと顔を上げると、なんとも言えない哀しい笑顔で妖平に言う。
少しだけ、ほんの少しだけ瑠璃への警戒を解いた妖平は、その笑顔から目を逸して戸惑っていた。
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