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「……はい、杉浦ですが」
妖平の低い声には電話の向こうにいる相手に対する何らかの期待なんて、僅かにも感じ取れない。
「あぁ妖平? 母さんだけど、しばらく帰れなくなったから家のこと頼んだわよ? 父さんも一緒だから。じゃ」
ガチャ。
ツーッツーッツーッ。
「…………!?」
一言も返事をしないままに切られ、妖平にはもう何がなんだか判らなかった。
「ほらな」
もう一口紅茶を口に含んでから瑠璃は言った。
「ってかテメェ何したんだよッ!」
「さてな」
妖平は魂の抜けた様な顔でその場にへたりこんだ。
(……そうだ姉貴!)
お姉ギャルの姉は、たまにしか家に帰らない困った長女だ。
だけれどもこんな時にはもう誰でもいい。
(帰って来てくれ……!)
祈る思いだった。
「愛菜殿は帰る。案ずるな妖平」
姉の名を出され我にかえった妖平は瑠璃に虚ろな視線をやった。
「…………消えろ」
この一言を絞り出す事が、今妖平に出来る精一杯の抵抗だった。
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