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番外編2-1
アスモデウスとの子を産んで三年の月日が流れていた。
この日、いつもなら大人しく魔界で遊んでいる筈の子……白羽がやけにグズついていて、どうしていいのか碧也は困り果てていた。
「今日ジェレミ居ないんだっけ……」
こんな日に限ってジェレミどころかロイもイアンも居ない。
仕方がないので白羽を連れてエレベーターで地上へと向かった。
前回、妙に舐め回されるような視線をおくられてから地上へ行くのは気乗りがしない。
しかし、まともな対応が出来る親というのがどうもイメージ出来ないし、自分ではどうしようもできないので、碧也は己の中にある不満は飲み込んだ。
「アスモデウス、勝手に地上に出て悪い。なあ、ちょっと出掛けて来たいんだけどいいか?」
碧也からの申し出に、地上用の姿を模したアスモデウスは書類から顔を上げた。
「どこへ行く?」
「白羽と散歩。コイツ最近ジェレミがいないと魔界にいるの嫌がるんだよ。オレじゃどうにも出来ないから、気分転換でもさせてくる。だから、コイツの羽を見えなくしてくれないか?」
白羽は真っ白な羽の生えた人外とも人の子とも言えない中間種だった。
まだ力も安定していないので決めかねていると言った方が正しいかもしれない。魔界でも問題なく暮らせてはいるが、いつどうなるかは分からない。
むやみに外出するのは危険と言えば危険でもあるが、長い期間の魔界暮らしで碧也としても息が詰まっていた所だ。
「なら俺も行く」
「いや、いい。お前まだ仕事残ってるだろ。この事務所の近くを散歩してくるだけだ。すぐ戻る。だから羽だけは見えなくしてくれ」
アスモデウスが指先を動かすと、羽が溶けたように消えていく。それを見て安堵の息を吐く。
——これなら大丈夫だ。
事務所の扉に手をかけた瞬間、瞬時に移動して来たアスモデウスに手を引かれた。
何か言いたそうにしているアスモデウスをジッと見つめる。
「どうかしたのか?」
「碧也お前……誰にも微笑みかけるなよ?」
またその話か。ウンザリだ。ため息をついた。もう耳にタコが出来る程に聞いている。
「分かっている。じゃあ行ってくるから」
「待て碧也……」
「ああ、もう。今度は何だよ!?」
若干イラつきながら聞き返すと言葉はアスモデウスの口内に飲み込まれた。舌を絡ませられてすぐに離される。
「やっぱり心配だな」
「あのな、前々から言おうと思ってたけど、お前ちょっと過保護過ぎねえか!? ガキじゃねえんだから迷子にならねえし、ちゃんとここにも帰って来れる!」
碧也の言葉を聞いてアスモデウスが遠い目をした。
そういう分かってない所が不安なのだ、とアスモデウスは口走ったが、碧也はもう出て行った後だった。
「へえ、こんなとこに公園なんてあるんだな」
事務所から百メートルも行かない距離に、意外と整備されていて小さな子とかが遊べるような遊具のある公園があった。
「ここで遊ぶか?」
抱っこしていた白羽の顔を覗き込むと、大きな目をキラキラと瞬かせて喜んでいる。
「あおや、ここ!」
「分かった。先ずは遊び方な?」
コクコクと好奇心いっぱいに頷かれた。
一緒に滑り台の階段を登って滑ると、やり方はもう覚えたようで、後は一人で遊び始める。
キャラキャラ笑いながら楽しそうにしているのを見て目を細めた。
「っ!?」
——何か、くる!!
妙な怖気に襲われナイフを手をする。大気が揺れたのと同時にナイフを振りかざすと、そこには世良がいた。
「わあ、かなり腕上げたね碧也」
——どうしてここに居るのが分かったんだ?
「アンタ何しに来た?」
相変わらずのお調子者だ。思いっきり不機嫌さを露わにしても気にした素振りもない。
「碧也さ、自分がどれだけ注目されてるのかもっと自覚した方がいいよ。あとその子もね」
ちょうど滑り台からスルリと滑り降りてくる。その前には進路を阻むようにラファエルがいた。
「成程ねー、この子か」
——しまった。
探るように白羽を見ているラファエルから隠すように、慌てて白羽を抱き上げておんぶする。
「この子、何で地上に連れて来ちゃったの? 天界に殺しに来てくれって言ってるようなものだよ」
「は? 何でって……。は? そっちこそ何でそうなるんだよ?」
「気が付かないのも当たり前かな。この子アルファ+なんだけどオメガでもあるんだよね。かなり特殊というか亜種。統率者でありながら生み出せる。そんな事が出来るのは世界でも数少ない。創造神だけだ」
突然ラファエルの持つ雰囲気が変わった。
「あーあ、私が碧也に生ませたかったんだけどな〜。でもこれで分かった。碧也お前はかなり危険な存在だから、悪いけどもう作り出せないようにその腹壊すよ」
繰り出された手刀に腹を貫かれる。身構える時間さえ与えられなかった。
以前に殺り合った時は手加減されていたんだと今になって思い知る。
——しら、は。
白羽の泣き声を聞きながら、意識がどんどん遠くなって行った。
目を覚ますと公園のベンチの上にいた。
しかし腹の痛みがない。夢だったのかと思案してみたが、痛かった記憶は鮮明に残っている。
「やっほー碧也! 気がついたかい?」
「っ!」
——白羽は!?
飛び起きて白羽の姿を探す。
白羽は呑気に滑り台を堪能していた。ホッと胸を撫で下ろす。
「何でまだここにいるんだよ?」
「せっかく治癒かけてあげたのに酷くなーい?」
——いや、アンタのせいで腹に穴空いたんだが?
碧也が半目で見つめると、ラファエルはケラケラと笑い始めた。
「ま、壊したかったのは子宮だけだったし、碧也に怪我させる気は無かったんだよね」
「子宮……」
それは有っても無くても構わなかったから、碧也は小さく嘆息する。
「これで周りからは狙われる心配はないだろうし感謝してよね」
「だから何でオレが狙われるんだよ?」
「碧也が創造神を生み出せる唯一のオメガだからだよ」
「いや、意味わかんねえ。生んだからって何なんだよ。逆に神が増えていいんじゃないのか? オレは神なんて信じてねえけど。何か不味いことでもあるのか?」
「関係大有りだよ。この世界の均衡が崩れる。しかも魔界側で生まれると下手を打てば天地がひっくり返る」
説明を受けたけれど碧也にとってはどうでも良く感じられた。
そこで漸くおかしな事に気がつく。
「何でアンタ……オレを殺さない?」
態々子宮を壊すのなら殺してしまった方が楽で確実だった筈だ。それだけの力の差もあった。なのにしなかった。
「さあね。何でだろうね……」
ラファエル自身が自らに問いかけるように姿を消す。答えは貰えず終いだった。
「帰るぞ白羽。アスモデウスが待ってる」
「はーい」
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