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アスモデウスの喉元を目掛けてナイフを振り下ろそうとしたが、体が硬直しているかのように動いてくれず、小さく舌打ちする。
家族との最後の記憶がずっとフラッシュバックしていて、頭の中を駆け巡っては碧也の行動を阻止していた。
あれ以来、碧也には相手の寝首をかくことだけは出来ない。
「何だ殺さないのか? 一回くらいは殺されてやろうと思っていたというに」
「……」
アスモデウスからの問いかけに答えられずにダンマリを決め込む。
何拍かの沈黙が流れた。
「お前は何やら妙なものを拗らせているな」
唯一の自分の弱点を見られたようなものなのに、碧也はただ困ったように儚く笑った。
アスモデウスは体を起こすと胡座をかいて座り、こちらをジッと見据えていた。
「お前を、殺したい……」
目の前にいるアスモデウスを見ているようで、何も見ていない碧也の視線がソッと伏せられる。
「そんな顔をしている奴には無理だな」
——そんな顔……て何だ?
問いかけたいがその気力さえも湧かない。とうとう碧也の手からナイフがこぼれ落ちた。
「来い」
「お前を……殺したい」
覇気のない言葉だけが口をついて出る。
「ああ、いつでも殺せ」
腕を引かれて正面から抱きしめられた。
アスモデウスの腕の中にいると、心の奥底に広がる闇が少しだけ払われた気がして、かえってそれが居心地悪かった。
——これは、要らない。
求めていないものから逃れようとすると、後頭部に手を回されて唇を貪られた。
濡れた水音が響く。舌を吸われ、されるがままになっていたが、碧也は初めて自分から舌を絡めた。
顔の角度を変えて深く吸い付く。
唇を離すと抱え直されて、またベッドの上に転がされた。頭の両側に手を突かれて覆い被される。
「寝かしつけてやろうか?」
「気絶させてやろうか、の間違いだろ」
「そうとも言うな」
アスモデウスが言った言葉に、初めて普通の笑いが零れた。
「いいぜ。抱けよ。一回も二回も……大して変わらない」
誘うようにアスモデウスの手首に口を寄せて甘噛みする。
てっきり拒絶の言葉が返ってくると思っていたのか、アスモデウスが逡巡するように目を細める。
「初めて笑ったな」
「そりゃそうだろ。勝手にオメガにされて拉致られてるのに普通に笑えるかよ。虚勢くらい張らせろ」
視線を逸らして横に流す。正直に言えば、この沈み込んだ気持ちを紛らわせるのなら何でも良かった。
探るようにジッと正面から見つめられているのは分かっていたが、碧也は視線を合わせる事もなく、それを誤魔化すように言葉を連ねる。
「その凶悪なモン、どうやって処理するつもりだよ。自慰するタイプには見えない」
裸のままだと嫌でも腹に当たる。碧也に向けてアスモデウスがニッと笑い口を開いた。
「これくらいなら放っておいても治まるが、抱いて欲しいと嫁に誘われちゃ希望に答えてやらんとな。お前の中に入るんだ。口と手を使ってちゃんと育ててみろ」
互いに体を起こしてアスモデウスの股の間に身を屈める。
言われた通りにするも、先端を咥えるだけでいっぱいいっぱいだった。
口に入りきらない所は手を使って上下に扱く。暫くすると先端さえも口に含めなくなってきて、碧也は顔を上げた。
「上に乗って自分で挿れて動いてみろ」
股座を指差され、碧也は大人しく足を開いて座った。散々出されたものが太ももを伝い落ちていく。
「……っ」
あれだけアスモデウスの陰茎を咥え込んでいたというのに、中々挿入っていかなくて、碧也は苦戦を強いられた。
「それだといつまで経っても始まらんな」
アスモデウスに腰を掴まれ下に落とされるのと同時に、下からも突き上げられる。
一気に直腸の中程まで入り込んできて、碧也は堪らずに声を上げた。
「あっ、ああああ!」
「まだ中が熟れているな。散々可愛がってやった奥はもっとグズグズだ」
自重でどんどん奥まで飲み込んでいく。
結腸への侵入は避けようと碧也は両足に力を込めたが、読まれていたように下から力強く突き上げられた。
「あ、あ、ああああーーっ!」
奥を開かれた直後に中でイった。
頭の中が真っ白に塗り替えられる。少しでも動くとまた新たな絶頂が訪れ、チカチカと目の前で光が弾けていく。
「始めたのはお前だろう、碧也? もっと腰を振れ」
今の状態で動けるはずもない。
それでも碧也は少しずつ腰を浮かせては落とした。その度に己で結腸を開く事になり、快感で力が入らなくなってくる。
「ぅ、あ、ああ、あ、ん、んんん!」
内部が痙攣し、また中イキするとアスモデウスが息を詰めた。
「こら、一人だけイクな。お前のこの名器を俺にも堪能させろ」
トントンと奥を刺激され、下から規則正しく動かされる。
イったばかりで感度の上がっている体にはそれすらも刺激が強くて、アスモデウスに向けて上体を倒してしまった。
「あっああ、あ、んぅ……っ、あ」
ガクガクと震える体で懸命に呼吸を整えるのに必死で少しずつしか動けない。一生懸命腰を上げて落とすと、口付けられた。
「しょうがないな。代わりに俺が動いてやろうか?」
睦言でも囁くような甘い声音に、大人しく頷く。
碧也はベッドの上に転がされ、一瞬でマウントポジションを取られた。
「出したモノがまだ腹の中に溜まってるな。それなら多少無茶をしても平気か」
膝が胸につくほど折り畳まれて、上から突き刺すように抽挿を繰り返される。
奥の奥まで入り込んできて、碧也はアスモデウスの名を呼んだ。
「ア……っスモデウス」
「どうした?」
「あ……ああっ、あっ、ひぁ、ああ゛あ゛、アスモデ、ウス……っ、強い……ッ、これ……強っ、ん゛ん゛ーーー!」
イクと同時に己の精液が顔に飛んで頬を汚した。
今度はひっくり返されて、皮膚を打つ音とグチュグチュという水音が響き渡る。
自らの内部からたつ音にも欲を煽られてしまった。
「んあ、ああっあああ……ッ、ア、アアアーー!」
「すっかり雌が板についたな。アルファに戻ってももう抱く側に戻れないんじゃないか?」
「ひ、ああっ、う……るさっ、あああ!」
「諦めて俺の嫁に徹しろ」
「すぐ……飽きるくせにっ、なに、ひ……ああッ、言って……やがる」
「どうだろうな。それなら一回イった時点で飽きてるぞ。なのに、お前には何回出しても足りん。碧也、このまま俺の子を孕め」
「んなの……っ、錯覚だ……、あ、一々真に受けて……孕めるか……ッ、ん、あああ!」
それからはまた散々だった。
激しさを纏った動きに翻弄され、精液は枯れて前立腺液しか出ない。ずっと中イキだけをさせられている。
「ぁ、ん、あああ、んんッ……!」
アスモデウスが中に出した精液のせいで媚薬効果も相まって、行為の終わりがまた見えなくなった。
三度目の情事までは覚えていたが、それ以降は数えるのも面倒になりやめた。
ベッドの上で心地よい夢の中へと誘われる。
「俺以外を想って泣くな」
腕の中に抱き込まれた。
涙など一滴も出ていない。アスモデウスが言った言葉の意味も分からないまま、碧也は眠気に身を委ねた。
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