ごろごろ

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ごろごろ

 ホテルで迎えた朝。目が覚めると時刻は4時だった。まだ辺りは真っ暗だ。昨晩寝るのが早すぎたのだ。すぐ隣にいる寧音はまだ眠っている。昨日は諸事情で両手が不自由だったから、こっちからはほとんど寧音に触れられていなかった。顔にかかる髪をよけて寝顔を眺める。ちゅーしたら起きちゃうかな……。 「ん……」  悶々と葛藤しながら唇を撫でていたら寧音が目を覚ましてしまった。 「……おはよう」 「おはよう寧音」  寝転がってイチャイチャしていたいなとか思っていたら寧音は起き上がってしまった。目をこすっている寧音はまだ眠そうで可愛い。 「……シャワー浴びたい……一緒にお風呂入る?」 「え⁉」  早朝から刺激が強すぎる発言に私はすっかり目が覚めてしまった。寧音は首をかしげて何でもないように言ってくる。昨日私に対して余裕がないとか緊張するとか言っていたのは夢だったのだろうか。 「ヤダ?」 「喜んで!」  食い気味で思ったより大きい声で返事をしてしまって寧音に笑われた。  昨日あれだけイチャイチャしておいて断るのはかっこ悪いかと思ってバスルームまでついて行ったけど、よくよく考えたら寧音の裸を見たことがなかった。 「晴琉ちゃん、ファスナ―下ろすの手伝って?」 「あ、うん」  意識したら途端に緊張が走って、ファスナーを掴んだ手が震えた。寧音に震えを悟られない様に必死でかっこ悪い。  緊張で変な汗を流しながら何とかファスナーを下ろしきった。ドレスを脱いで現れた寧音の姿に思わず息を飲んだ。 「え……」    夏に水着姿も見たのに、なんでこう、下着って面積変わらないのに見え方が全然違うのだろう。というか寧音の下着、黒で、レースが付いて、部分的に透けてて……色気がヤバい。 「え?あ……」  私の反応を見て、寧音は何かを思い出したような素振りを見せた。そして私にぴったりと抱き着いて来たから、下着が見えなくなってしまった。 「どうしたの?」 「……忘れてた」 「何を?」 「これ着けてたの忘れてた……引いた?」 「え?何で?」 「だって……こんな派手なの……」 「かわいいよ?」 「いつもは違うの」 「デートだから着けてくれたの?」 「だって……だって志希ちゃんが……絶対喜ぶからって」 「先輩が?」  志希先輩は寧音のことを妹みたいに大事に思っていると言っておいて、こんなアドバイスをするなんて。なんて先輩なのだろう。一生ついて行こうと思った。 「せっかくだから見せてよ」 「いいけど……」  渋々と見せてくれた下着姿を目に焼き付けようと凝視した。 「ねぇ、見すぎ……早くシャワー浴びよう?」 「あー……やっぱり私はいいや」 「どうして?」 「んー……」    下着姿見てたらムラムラしてきたから、とは言えなかった。 「……前と同じならいい?」  寧音の提案を受けた結果、私はホテルの広い浴槽の隅っこで、かつて寧音と一緒にお風呂に入った時のように体育座りをして目を閉じていた。隣にいる寧音が立てる水音ひとつでさえ敏感に反応してしまう。 「なんか懐かしいね。足伸ばしたら?」 「これが落ち着くから……」 「そう……」  寧音が私の肩にもたれかかる。触れた肩に全神経が集中する。 「まだ恥ずかしい?」 「むしろ前より恥ずかしいかも」 「どうして?」 「んー……何でだろ……前より寧音のことが好きだからかな?」 「……そういうことは言えちゃうのにね」  肩に乗っていた寧音の体重が離れて行く。寧音が動いた気配が水音で分かる。 「寧音?もう出る?」 「……晴琉ちゃん目、絶対に開けないでね」 「なんで?」  お風呂で温まった寧音の手によって目を塞がれる。ホットアイマスクみたいで気持ちいいとか思ってたら、唇も塞がれた。触れるだけのキスが続いて、昨日のことを思い出して恥ずかしくなる。浴室のせいでリップ音が、やけに耳に響いた。 「寧音、ちょっと……」 「……先あがるけど……まだ時間あるから……期待して、いい?」 「それって、その……」 「言わないと分からない?」 「……分かる」 「じゃあ待ってるね」  寧音がバスルームから出て行く音を聞いてから目を開けた。しばらくボーっと天井を見上げていた。  覚悟を決めてベッドルームに戻る。寧音はベッドに寝転んで天井を見つめていた。お互いホテルに備え付けられていたバスローブを着ている。バスローブしか、着ていない。 「寧音」 「うん……」  名前を呼んでもこっちを見てくれない。心ここにあらずと言った感じで、気の抜けた返事だけ。 「寧音……こっち見てよ」  寧音に覆いかぶさった。それでも目は合わない。 「どうしたの?……気分じゃなくなった?」 「そういうわけじゃなくて……」  何か歯切れの悪い返事。寧音らしくない。でももう私は覚悟を決めていて、我慢の限界が近づいていた。 「ごめんだけど……もう『待て』できないかも」 「ずっと我慢していたの?」 「そうだよ……文化祭の時からずっと」 「そう……ねぇ晴琉ちゃん……がっかりしないでね?」 「え?するわけないじゃん」 「でも……今まで期待させるようなこと言い過ぎたかなって……今更思って」 「もしかしてそれでなんかテンション下がってるの?」  小さく頷いた寧音を見て、こっちのテンションが上がっていた。そんなこと気にしなくていいのに。昨日から可愛い一面を見せすぎだと思う。 「笑わないでよ」  私の下で不貞腐れたようにしている寧音。両頬を軽くつねってくる。 「いふぁい」  本当は全然痛くないけど。上手くしゃべれない私を見て寧音が笑っている。私の大好きな笑顔。つねったところを撫でている寧音の機嫌は良さそうだ。 「寧音、そろそろいい?」 「うん」 「ほら早く」 「うん?」 「……『待て』の次は?」 「あぁ」  私の意図を理解した寧音の言葉を今か今かと待ち構えた。たぶん私に尻尾が生えてたら、ブンブン振っていることだろう。 「晴琉ちゃん、『よし』」  ご馳走にがっつくみたいに勢いよくキスしたら寧音は笑っていた。最初は昨日寧音にやられたようにたくさん焦らしてやろうって企んでいた。それなのに寧音がやけに素直でおねだりなんてしてくるから、焦らしそうとした意志はすぐになくなって、私は寧音の従順なペットのようだった。
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