くよくよ

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くよくよ

 礼ちゃんが大人しくなったおかげでバスケの秋の大会まで集中して過ごすことができた。集中すると時間はあっという間に過ぎて行く。志希先輩が引退したバスケ部の戦力はガタ落ちしてしまい、大会の結果はあっけなく初戦敗退。私も葵も調子は良かった。監督に文句があるわけではないけど、適切な鏡花先輩の分析が勝利への大きな要因のひとつだったと痛感する大会だった。  散々な結果だったとはいえ、くよくよと引きずるのは性に合わないから、準備が始まっていた11月の文化祭に気持ちを切り替えていた。 「葵~帰りどっか寄らない?」  とある休日の部活終わり。私は部活が午前で終わるから寧音に会いたかったのに、用事があるからと言われて断られて暇をしていた。 「ごめん今日は円歌とデートするから」 「ですよねー」  時間が出来たら恋人に会いたいと思うのは葵も同じだった。 「じゃあ私とデートしましょうよ」  朱里がすぐそばに来ていた。小悪魔のような笑顔を浮かべて。 「前に断ったでしょうが」 「ちゃんとデート断った先輩かっこよくて惚れ直しました。だからもっと誘おうかと思って」  このめちゃくちゃなことを言う後輩は、どう対処したらいいのだろう。   「朱里ちゃん、晴琉を困らせるのもほどほどにね」 「は~い。葵先輩はいいですよね。ずっと彼女さんとラブラブですもんね」 「……まぁ」 「あー何ですかそれ!全然謙遜しないじゃないですか。羨ましいなぁ」  満更でもない顔をしている葵を見て私も羨ましくなっていた。実は二年生に上がったばかりの頃、葵目当てに部活を見学している子も最初はいた。しかし彼女たちはすぐに葵を諦めることになる。もし私が葵に好意を抱いていた人間だったら、きっと同じ結末を辿ったことだろう。見学者たちの黄色い歓声や声援に全く反応を示さないクールな葵が、円歌が見学に来た途端に向けた、あの愛おしそうな眼差しを見たら誰でも諦める。二人の間にはもう誰にも踏み込めない空気が確かに存在していた。 「ちょっと何、晴琉」 「幸せそう過ぎて、なんかムカついてきた」 「痛い痛い」  葵に抱き着いてから首に腕を回して軽く締めたら、全然痛くなさそうに抗議してくる。 「あれ?もしかして晴琉先輩は上手く行ってないんです?私とのデートは断っておいて」 「そんなことないし!」 「ムキにならないでくださいよ……いつでもデート行けますからね~」    朱里は不敵な笑みを浮かべながら去って行った。何だか前よりもずっと朱里が私に積極的になっている気がするのは気のせいだろうか。 「……寧音と上手く行ってないの?」 「そんなことないけど」 「なら良いけど。そろそろ帰ろう」 「うん」  寧音との関係性は両想いになってから特に何か進展したかと言われれば、何もなかった。恋人らしい時間を過ごすことや、どこかへ出かけることも出来ていなかった。私が部活に忙しくしていたのもあるし、寧音はお祖母ちゃんが体調を崩したとかでお家の方が大変だったのもある。大会が終わった今は、葵と円歌のような関係をこれからじっくりと築けば良いと思っていた。そう楽観的に捉えていた私に事件が起きたのは翌日の日曜日、平和に過ごしていた休日の夜のことだった。  のんびりとベッドに寝転んでスマホでSNSをチェックしていた私のもとに朱里からメッセージが届いた。 『こんなの撮れちゃいました』  何だそれ、そう思いながらスクロールした画面に映ったのは、どこか都会の通りだった。人混みが凄くてたくさんの人が映っていたけど、私はすぐにとある人物を見つけることが出来た。結局休日の間は会えなかった、今一番会いたい人。 「寧音?」  映っているのは寧音で、そして少し他の人で隠れているけど、隣にいるのは――。 「……礼ちゃん」  動揺して、操作していたスマホが顔面に落ちてきた。あまりの痛さに悶絶しながらも、再び通知音がなったから急いでスマホを拾う。 『これ、いつだと思います?』 『昨日です』 『やっぱり私とデートした方が良かったんじゃないですか?』  立て続けに送られてくる朱里からのメッセージに軽い眩暈がしていた。だって昨日は寧音のほうが用事あると言って、私のデートのお誘いを断っていたのだから。それに今日も連絡を取っていたけど、礼ちゃんのことなんて一言も触れていなかった。  私は悪い夢なのだと思って朱里に返事を送ることもなく、無理やり眠りについた。そして朝が来ても朱里からのメッセージも写真もちゃんと残っていて、夢ではなかったのだと打ちのめされたのだった。
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