前日譚

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前日譚

 最初は親友の円歌の友達っていう認識だった。いつも落ち着いていて大人びていて、そしてちょっと色っぽいな、なんて思っていた。複数人で話すことはあっても二人で遊ぶとか考えられなかった。仲が悪いとかじゃなくて、小学生の頃からバスケに打ち込んできてザ・体育会系!という生活をしてきた自分とは別の世界の人だと思っていた。深く交わることなんてないと、思っていた。  初めて意識したのは一年生の時に秋にあった文化祭の出来事がきっかけだった。私と円歌が怪我をした時に初めて取り乱して泣いているところを見て、傍にいてあげたいと思った。友人を想うその綺麗な涙を見て、二度と流させたくないと思った。足を怪我した私の看病をしてもらえたら距離も近づくかもしれないと期待していたけど、クラスも違っていたし、私の周りには幸いにもたくさんの世話をしてくれる女の子がいて、結局あれから円歌の友達という距離は変わらなかった。  縁もなかったのかなと思っていた二年生の春。唐突に与えられた円歌の友達――寧音からのデートのご褒美に、期待してはいけないと、浮かれているのはかっこ悪いと自制して、なるべく普段通りに接した。そうしたら寧音はとんでもないことを言い出したのだ。 「晴琉ちゃんと恋がしたい」  どうして急にそんなことを言い出したのか全く心当たりがなく、ただただ混乱して、でも「気にしないで」と言われてしまったらどうしようもなくて、また友達の距離に戻ってしまった。私と恋がしたいと言ってくれたのに、バスケ部の先輩である志希先輩とか鏡花先輩とは仲良くする寧音が嫌で、ごねるようにして再びデートを申し込んだ。  それなのにデートの日は雨が降るし、デート中だけでなく学校でも寧音の言動に簡単に揺さぶられてしまって、かっこ悪い姿ばかりさらしてしまっていた。一応は一年生の時に文化祭の劇で王子様役を務めた私は、今や学校中の女の子から王子とか呼ばれてかっこいいとちやほやされていたのに。  寧音は私よりずっとたくさんのことを考えていて、というか考え過ぎていて、私にはわからないことばかりだった。近づいてくれたと思ったら離れてしまうもどかしさに、最初は私もどうしたらいいかわからなくて、寧音と同じようにたくさん考えてみたけど何も思いつかなくて、最後には全部抱きしめて受け止める、という選択をした。私らしい単純な選択は功を奏して、夏の終わりには寧音との関係性も徐々に深く交わるようになった。  それから――。
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