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12. 本当になった嘘
弟の腫瘍は抗がん剤治療によって縮小して寛解状態を維持し、10年後に開発された最新の治療で完治した。
更に5年後、30歳になり現在鳥類学者としてスカンジナビア半島のフィールドワークから帰ってきたエヴァンは私に話した。
野鳥観察をしていた彼は森で迷い、羽音が聴こえ顔を上げると美しい梟が頭上を飛んでいた。優雅な姿に目を奪われていると梟は木の枝に止まり付いてこいというように彼を見た。
優雅に飛んでは木に止まり、また翼を広げて飛ぶ梟を追ううち、丈の長い緑の草木の茂る密林に出た。そこには極彩色の王蟲や炎の羽色の大きな鳥や、金の鱗粉を撒いて飛ぶ青い鳥の姿があった。
弟は写真を撮るのも忘れ暫くの間恍惚として立ち尽くした。霊的なものに近い美しい景色に息を呑んだ。
その話のあと彼は僕に言った。
「入院してた頃オーツが逃げたってニュースで聞いて僕は感激したんだ。彼が空を飛ぶのを想像すると僕も頑張ろうと思えた。それにしてもあの森で見た梟はオーツそっくりだったな、だけど生きてるはずがないしな」
「生きてるさ」
そう答えた僕を弟は不思議そうに見た。
「嘘か真かは自分の心で見極めることだ」
僕はそう言ってカレンダーを見上げた。
4月2日——僕の嘘が本当になった日。
END
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