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後編
下校のチャイムが鳴る。
ぼーと荷物を詰めながら夕日を見ていた、帰ることも忘れて考えに耽る。
あの子は上手くいっただろうか?
しばし雲の流れを見て時間がすぎていた、沈む陽に時を感じ振り返った教室にはもう誰もいなかった。
流石に帰らねばと廊下に出ると、何かに飛びつかれる。
その子からはいつにもまして情けない「な〜ちゃん」という声した。
「あんたどうしたの!?そんな顔して」
涙濡れた顔をこちらに向け、えぐえぐと引きつった声をあげる。
「沈先輩がっ…ひっく、こんなのいらないって受け取ってくれなかったの!!ぐすっ」
彼女の手にはカップケーキが握られていた。
プチッと何かが切れた。
許せない。
自分の中で怒りがひしめき、思考が怒りで染まる。
好意が明らかにあるであろう女の子と毎日登下校して日々を過ごして居ながら、その男は手作りのものを食べるどころか受取もしないなんて――あり得ない!!
彼女の心を弄んでいたに違いない、見送った自分が馬鹿みたいじゃない!!
私は彼女をそっと引き剥がす。
「もー許せない!!私あいつを探してくる!!」
「えっ?なーちゃん!?」
昇降口にまだいるかも知れない、全力で走り階段を駆け抜けた。
急がないと帰ってしまう、そう思うと足が早くなる今走ったら自己のベストタイムが出るだろう勢いだ。
二年生の下駄箱に向うと目的の沈先輩がそこにいた、靴を履き替える最中だったらしく。
すごい勢いで走ってきた私をみて驚いている様子だった。
「見つけた!!!」
「えーとどうしたのかな、あっもしかして演劇の感想でもいいに来てくれたの?」
腹が立つぐらいに綺麗な笑顔を向けられる、謎に周りが発光して見えるが気の所為に違いない。
「違う!!」
「あってか君、副部長推しの子じゃん」
「ファンサして損したー」
見る見ると笑顔が消え面倒くさそうな表情に変わる。
「で、何?俺今日疲れてんだけど…」
態度わっる!!思わず心で毒づく、普段の王子様顔は何処に行ってしまったのか。
いや、これがこの男の本性なのだろう。
「なんであの子の事振ったのよ!!あれだけの事しといて可笑しいんじゃないの!?」
「は?」
「いや、なんでも何も話た事もない子と何で付き合わなきゃならないのさ」
「え…?」
私は何を言われているか分からなかった。
「じゃあ、何でカップケーキ受け取らなかったの好意ぐらい受け取っても…」
「いや、異物混入怖いじゃん。それに手作りのものは基本NGだし」
確かに気にする人はするだろうし、人気な先輩だ私達が知らないだけで色んな事があったのかも知れない。
「毎日登下校してるってのは…休日どう過ごしてるとかも聞いてたんだよ!?」
「えっこわ、またそういう感じか…」
「そもそも俺、君の大好きな副部長と毎日登校してんのにほんとに何その子」
また?
いやそんな事よりあの子は私に何を話してたの?
「俺、帰るよ。遅くなっちゃうし」
私を置いてスタスタと先輩は歩いていく。
ぐるぐると思考が廻る、何を考えてたんだろう普段のあの子の行動を考える。
考えども喋った内容ばかりでプライベートの事は思い出せない。
そもそも――
「あの子ってなんて名前?」
名前も知らない、沈先輩が好きな女の子としてしか知らない。
彼女はいったい誰?
寒気が走る気づいたら横にいて何気なく話していた彼女の事を私は何も知らなかった。
気味が悪くてしょうが無い。
「なーちゃん」
後ろからあの子の声がする。
ギュッと抱きしめられるただのスキンシップが不気味で怖くて、そんな事も気にせず彼女は私に話しかける。
「なーちゃんはずっと友達だよね?」
声をする方に目を向ければ満面の笑顔がそこにあった。
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