前編

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前編

「なーちゃん私、(しずむ)先輩に告白しようと思うの!!」  唐突に友達から告げられた言葉に私は彼女の方を向く。 「おっ!!とうとうするのか!応援してるよ」 「えへへ」  彼女からずっと片思いしている先輩の恋愛相談を聞いていた。  しかしそれはとても焦れったいものだった。 「でももう演劇始まるよ」 「あっ」  か細く聞こえた声を最後に彼女は正面へと向き直る。  文化に富む我が高校は部活に力を注いでいる、その中の一つ演劇は花形でありちょっとした学校のアイドルだ。   ステージと客席というにはお粗末だが、それでも学校内で大々的な発表の場が設けられる。  舞台幕があがり劇が始まる。  そうして一際目立つ人物が現れた、彼女の推しであり片思い相手。  演劇の花形、二年生の(しずむ)先輩。  遠目からもわかる整った目鼻立や甘い声に女子達が色めき立っていた。  もちろん隣からも物凄く感じる。 『あぁ姫何処に行ってしまうのですか!?』  『私を置いて行かないでください…』  切なげなシーンが続き演目が終わる。  拍手と共に幕が降り私達は舞台から遠のいていった。 「今日も最高だった!先輩かっこいいなぁ〜」 「そうだねー」 「もう、なーちゃん!いつもそっけないんだから!!」 「だって私の推しは副部長だし」  そう皆が色めく王子様に私は微塵も興味がない、むしろ味のある脇役にぐっと来るのだ。  と言ってももちろん恋愛ではない。 「というか話の続きだけどいつ告白すんの?」 「えーと今日!」 「はやっ!?」  でも不思議な事ではないと思い直し私は話を続けた。 「まぁいいんじゃないの?あんた達いつも登下校してるし話聞く限りそんな近い距離感でなんでまぁ付き合って無いんだか」  彼女から毎日寝癖はどうとか、朝が弱くて目つきが悪くなるとかという話を聞き続けていた。   「いやー…だって恥ずかしいだもん」 「でも今日わねいつもと違うの!特別なものを用意したのだ!!」  そう言って彼女は何かを取り出す。  それはカップケーキ、チェックのラッピングが施された手作り感満載の可愛らしいものだ。 「これを渡して告白するの!」 「そっか〜いやぁ私から旅立つのかぁ応援してるぜ友よ!」  彼氏が出来れば彼氏優先は当然、彼氏とという謳い文句で誘いを断られるなんてよくある話だ。  周りと同様この子をそうなると思うと少し寂しさを覚えた。 「でもまた何かあったら話聞いてねなーちゃん!それじゃ私言ってくる!!」  颯爽とそう言い残し駆けていく背中を見守り私はその場を跡にした。
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