第12話 出張から帰るとセミダブルのベッドがダブルベッドに入れ替えられていた!

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第12話 出張から帰るとセミダブルのベッドがダブルベッドに入れ替えられていた!

瞳と別れてから2か月が過ぎた。もう6月半ばになって初夏の日差しになっている。美幸は2か月の研修を終えて、本社の調査企画部に配属されていた。 二人の毎日の生活も徐々に軌道に乗って来ていた。当初の予定とは少し違ってきているが、臨機応変に対応してきた。朝は美幸が朝食の準備をしてくれて、それを二人で食べて、後片付けは僕がする。 その間に美幸は昨夜のうちに乾燥洗濯機にかけておいた衣類を取り出して畳んで、僕と美幸の分を分けてくれる。それから美幸が出勤する。その後に僕が戸締りをして出勤する。 毎日の帰宅時間はLINEで連絡し合っている。美幸の研修中は帰り時間が一定していたので、美幸が夕食を作ってくれることが多かった。調査企画部に配属されてからは帰宅時間が不規則になってきている。それで美幸の帰りが遅くなる時は僕が夕食の準備をしている。 二人の生活が軌道に乗ってくると夕食はどちらかが自炊することが多くなった。その方が経済的であるし、遅くなっても二人で一緒に夕食を食べたかったからだ。 5月の連休は両親に断って、二人とも帰省することはやめた。それは僕が美幸と一緒に都内の主だったところを見物して回りたかったのと、美幸を一人で行かせるのが心配だったからでもある。 しかし、それは兄妹で旅行しているような感じで、恋人同士が旅行しているようではなかった。美幸は連休中、毎日行く先々をとても楽しんでいた。 ◆ ◆ ◆ 6月21日(金)~23日(日)に食品関係の学会が福岡で開催されるので、僕は研究成果を発表するために出張することになっていた。美幸をマンションで一人にしておくのは心配だったが、美幸は大丈夫だから安心して行くように言ってくれた。出張中はLINEで連絡を取り合っていたが、美幸に何事もなかった。 23日(日)の午後7時にはマンションに帰ってきた。夕食には福岡でお弁当を買って帰ると約束していた。ドアを開けると美幸が跳んできた。 「おかえり、無事でよかった。お兄ちゃんがいなくて一人で寂しかった」 「お弁当を買ってきたから一緒に食べよう」 部屋着に替えようと寝室に入った。何か様子が変だ。ベッドが大きくなっている。その上に二人分の寝具が置かれていた。 「美幸、どうしたんだ。ベッドが大きくなっているけど」 「ごめん、お小遣いが溜まったので、ベッドをダブルベッドに買い換えました」 「どうして、セミダブルで十分な大きさがあっただろう」 「一人では十分だったけど、二人では狭いでしょう。お兄ちゃんにいつもソファーで寝てもらっていたので気が引けていて、どうにかしようと思っていたから」 「それで僕も寝られるようにダブルにしてくれたのか。ありがたいけど、それなら、シングルをもう一つ買えばよかったのに」 「そうすると、セミダブルとシングルで寝室がいっぱいになるから、やっぱりダブルの方がコンパクトで良いかなと思って」 「僕のことを思って買ってくれて、ありがとう。せっかくだから今日から寝させてもらうとするかな」 美幸はお味噌汁を作ってくれていた。二人はお弁当を食べた。美幸が後片付けとお風呂の準備をしてくれた。美幸が先に入って上がると、僕が続いて入った。 僕がお風呂から上がると美幸はリビングにいなかった。寝室は明かりが落としてあって、美幸がベッドの上にちょこんと座っていた。僕が入っていくと、美幸は僕の顔をじっと見て、頭を下げて、そして言った。 「お兄ちゃん、長い間、ソファーで寝てくれてありがとう。今日からここでゆっくり寝てください」 何を言うのかと思ったが、そういうことか。僕は変な想像をしていた。 「ああ、今日からゆっくり眠れそうだ。ありがとう」 僕は横になって布団をかけた。 「お兄ちゃん、今、変なことを考えたでしょう。『不束者ですがよろしくお願いします』とでも言うのかと思った?」 図星だった。何で分かったんだ! 「いやいや、そんなこと考える訳がないだろう」 「覚えている? 小さかったころ、二人が同じ布団で寝かされていたこと」 「覚えている。美幸は僕によく抱きついて寝ていた」 「パパとママが抱き合っているのを見た時から真似したくなって」 「それで美幸と『パパママごっこ』をしていて、母さんに見つかって、しかられた」 「お兄ちゃんがそのときしょんぼりしていたのを覚えているわ」 「そんなことを美幸は覚えていたんだ」 「それからは、パパとお兄ちゃんが奥のお部屋で、ママと私が前のお部屋で、別々に寝るようになったのよ」 「よく覚えていなかったけど、そうだったのか。その時からか、別々に寝るようになったのは」 「それから、お兄ちゃんが中学生になった時に2階の後ろの勉強部屋で一人で寝るようになって、私も中学生になったときに2階の前の勉強部屋で一人で寝るようになった」 「そうだったね」 「ここに来た晩にお兄ちゃんのベッドで寝かせてもらったとき、お兄ちゃんの匂いがして、とてもよく眠れた。お兄ちゃんと一緒に寝ていた小さいころを懐かしく思い出していました。こうしてまた一緒に寝られるなんて思ってもみなかった。ここへ来て本当によかった。おやすみなさい」 そう言うと、美幸は眠ったみたいで、ほどなく寝息が聞こえてきた。それを聞きながら僕も眠ってしまった。
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