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それでも。篠宮は知っている。桂城自身は決して塗り替えることのない雪の夜を抱えて行くのだ。熱い心の奥底で。どんなに凍える記憶であろうと。
いつものように閉店間際に店に顔を出した桂城をチーフマネージャーが待ち構えていた。社長室のドアを閉めた篠宮は数枚の予定表を桂城に手渡した。
「先日、悪天候でキャンセルされた方々から、予約の取り直しのご連絡をいただいておりますが…」
結局、あの雪の夜と翌日は店のエントランスや外回りの整備のため臨時休業を余儀なくされた。余裕のある空間を保つために桂城の店は決して客席を満席にしない。それは先代からの方針だ。当然、受けられない予約が増える。
「ふん?」
社長の席に落ち着いた桂城の手元に手紙やら書類やらが積み上げられる。マネージャーの口調は静かだった。
「次の定休日は営業されてはいかがですか」
「なんだって」
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