白の孤独

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 タイヤにチェーンを巻いたウエイターが送って行くと申し出てくれた。それを断ったのに理由はなかった。ただ、歩いてもそう遠い距離ではなかった。  雪の中に、彼は一歩踏み出した。  冷たかった。高い位置から降る街灯の光が反射して白い世界をさらに明るく見せている。  世界は静寂に満ちて色がない。風が吹き(すさ)ぶ。髪をかきあげる風。白い息が巻き上がる。肌を突き刺す冷たさが鮮烈な痛みに変わる。  空気の冷たさに少し息が苦しくなって篠宮は足を止めた。まるで現実の世界ではないような白と黒しかない夜。  このまま立ち止まっていては、どこへ行けばいいのか分からなくなりそうな気がした。  白い闇。出口がない。  それでも篠宮はコートの襟を合わそうともせずに歩き続けた。  ふと、空間が開けて自分が橋の上にいることに気がついた。自分の部屋に帰る道を曲がり損なったらしい。多分、無意識に。
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