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白の孤独
店の中にはまったくといっていいほど客の姿がなかった。
薄いベールのような光に満ちた広い空間。ぽっかりと浮いて、ピアノの音だけがさざめき流れている。
原因は分かっている。ウエイターの一人が心配そうに携帯電話のディスプレイに見入っている。荒れ狂う白姫が街を麻痺させていた。
指で触れると窓ガラスは氷のように冷えている。そこから見える風景はいつもとすべてが違う。白い布を被されたような街にさらに雪が降り続いていた。
時折通る車の轍の跡を見る間に白く塗りつぶしていく雪の力。それは圧倒的な自然の力だった。
「クローズの用意を。片付けはいいですから動けるうちに」
篠宮はそう決めた。さらにひどくなりそうな気配だとニュースが告げる。いつものように桂城は不在だった。すでに数名しか残っていないウエイターやホステスたちが慌ただしく動き始める。
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