幼児と青年

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 早瀬から葉風に依頼されたロンカの家庭教師だが、とある歌を歌う時にだけ歌声に魔力が乗ってしまうそれを制御できるように教えてほしいというものだった。  ロンカの母である世羅が子守唄代わりに歌っていたというその歌は、幼くして母と引き離されたロンカにとっては、母との思い出の歌。感情の揺らぎが魔力として歌声に乗ってしまっても仕方がないことではあるのだが。 「頭の固いジジイども(天界の番人の一部)、こんなにかわいいロンカのことを『どこの馬の骨の血を引いているかわからない』なんて言って母親と引き離しただけでなく、地上の人間たちが運営している孤児院に入れようとしたんだ。だから地上の観測者の役目を俺がもぎ取って、世羅がリョクジュと暮らしていたこの家でロンカを育てているんだよ」  早瀬からそんな話を聞いてしまっては、お人好しな気質の葉風が、ロンカに『おとうさま』と呼ばれることを訂正することができるはずもなく、家庭教師を引き受けてロンカと会う度にそう呼ばれるようになってしまっている。  葉風が地上で暮らしているのは修行のためだが、それでも一応、一定以上は力の制御が認められてから人間に擬態して地上で暮らすことが許されるため、ロンカに魔力の制御方法を教えることはできなくもない。  早瀬がロンカに魔力制御を教えることが難しいのは時間が足りないからなのは話を聞いた時に葉風も察した。一日でも早くロンカが再び母親と暮らせるように天界で色々と動いて手を回しているのだろう。そちらを優先するために、子守りもできる家庭教師を探していたのだろう。  ロンカの父親のリョクジュと葉風が同一人物のようなことを言っていたけれど、きっと何かの間違いだと葉風は思っている。 「ななぁいーろぉのー」  葉風は、ロンカの歌声を聞きながら思考を巡らせつつも、歌の序盤はそれほど魔力が揺らいでいないなと思いながら、早瀬から聞いた問題箇所に備えて、周囲にそっと結界を張った。
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