青の賛歌

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 「あ……」  不思議とすっと腑に落ちた。静香ちゃんに肯定されて、ぼくは救われた気がした。これでいいんだと、そう思えた。こんな単純なことだったんだ。自分と向き合うのは。そして、人を好きになるということは。  それから父の転勤で、ぼくは地元を離れた。両親同士の関係は冷え切ったままだ。母は相変わらず何もしない。けれど、ぼくには何も無かったわけじゃない。ぼくには歌がある。  やがて、ぼくは―――俺は、作詞作曲をするようになった。完全に独学だけど、夢中になれた。幸せにも近い感情を持っていた。母とは違う意味で部屋に籠もり、作曲する。飯の時間でも、風呂の時間でも、学校でさえ、歌を、音楽を忘れることはなかった。春も夏も秋も冬も、作曲のことばかり考えていた。  中学三年のある日、自作の曲をネットで投稿していると、注目されるようになり、プロからも人目置かれることとなった。認められた。肯定された気がした。興奮するほど嬉しい。  決めた。俺はここを出て、大勢の人の心に残る曲を作る。そして静香ちゃんに成長した姿を見せたい。また会えるとは思えない。けれど、せめて恥じない存在でいたい。そう誓った。  「となると、テレビに出られるくらい有名にならないと、かなあ」
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