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「紫苑、とびきりいい石が手に入った。どんな風に加工するのがよいか、一緒に考えてくれるかい?」
「旦那さま。大和の国でも帝都一と名高い宝飾店の主人が、意匠の相談を素人にするのはよろしくないかと」
「紫苑がずぶの素人なら、この世界の誰も宝石の加工なんてできややしないよ。ほらこの石の歌を、願いを教えておくれ」
洋装の美青年に声をかけられた紫苑は、掃除の手を休めると深々と頭を下げた。
「承知しました。少々お時間をくださいませ、旦那さま」
「旦那さまだなんて。煕通と呼んでくれて構わないのに。ほら、呼んでごらん。煕通って」
「……恐れ多いことです、煕通さま」
「まったくつれないね。それにしても、紫苑はいつ見ても細すぎる。よし、せっかくだしうなぎでも食べに行こう」
「自分はまだ仕事が。それに石の歌を聞くのでしょう?」
「いや、食事が先だ。みんな、紫苑にご飯をたべさせてきてもかまわないね?」
「どうぞいってらっしゃいませ!」
(たくさん食べたところで、これ以上背が伸びることも、筋肉がつくこともないのに。困りましたね、私は本当は女なのだと告げたなら工房から叩き出されてしまうのでしょうか)
うきうきと嬉しそうな煕通に手を引かれながら紫苑は密かにため息をついた。
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