大学を卒業したら趣味も卒業

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     会社から帰宅すると、途中で買った弁当をテーブルに広げて、テレビのスイッチを入れる。適当な番組を見ながら一人で食事するのが、俺の日課になっていた。  ただし今日は、いつもより仕事が早く終わった分、画面に流れていたのは見慣れない番組だ。いわゆる歌番組というやつらしい。  俺は流行歌の(たぐ)いには疎く、興味もなかった。高校までは音楽全般に関心がなかったが、大学では合唱サークルに入ったため、クラシック音楽を聴くようになっていた。  ただし、歌うために聴くだけであり、音楽鑑賞そのものを楽しんでいたわけではないのだろう。就職して合唱活動から足を洗った今、昔買ったCDは、全て押し入れの奥で眠っていた。  そんな俺だから、歌番組なんて、いつもならばすぐにチャンネルを変えてしまうのだが……。 「たまには悪くないな、こういうのも」  なんだか懐かしい気分になり、自然に頬が緩む。  テレビから流れていたのは、ト長調の宗教曲を思わせるような、明るく美しい旋律だった。俺が好きだった、シャープひとつの調性だ。  ちょうど間奏の部分だったらしい。それが終わって、歌声が聞こえ始めたところで、俺はハッとする。 「この声……! まるで、よこりゅう先輩みたいだ!」    
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