大学を卒業したら趣味も卒業

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    「今日のゲストは、サイドドラゴンさんです。ネット動画の歌い手経由でデビューした、新進気鋭のアーティストで……」  テレビの画面には、どこかのスタジオらしき場所が映し出されている。  俺がよこりゅう先輩について回想する間に、ミュージックビデオの映像は終わっていたらしい。  先ほどのバラードの担当歌手なのだろう。司会者の女性に紹介されて登場したのは、黒のスーツで身を固めた男だった。「新進気鋭のアーティスト」という割には老けており、頭のてっぺんも少し薄くなっている。ただし、その顔には見慣れた面影があって……。 「サイドドラゴンって『サイド()『ドラゴン()』か……! よこりゅう先輩じゃないか!」  テレビに向かって、俺は大声で叫んでしまう。  歌声から彼が思い浮かぶのも当然だった。よこりゅう先輩その人が、あれを歌っていたのだ!  たった今、司会者は「ネット動画の歌い手経由でデビュー」と言っていた。つまり「合唱みたいな団体競技をする時間はない」という理由で、よこりゅう先輩は、個人で歌う道を選んだのだろう。  時間のある時に一人で歌って、動画としてネットにアップ。それがプロの目に()まり歌手デビューという経緯のようだ。 「そうか……。よこりゅう先輩、ちゃんと歌い続けてたんだ……。合唱は卒業しても、歌うことからは卒業してなかった……」  嬉しくて嬉しくて、目が潤むほどだった。  同時に、我が身を振り返る。  よこりゅう先輩みたいに、大学を卒業したら趣味も卒業。そう思って、完全に音楽から離れた生活を送っていたが……。  考えてみたら、大学時代も俺は、よこりゅう先輩ほど合唱を頑張っていなかった。これでは卒業なんておこがましい。むしろ中退というべきではないか。 「よし! ならば俺も、よこりゅう先輩を見習って……」  もう無為に過ごすのは()そう。  改めて決意した俺は、パソコンを立ち上げて、近隣の市民合唱団を探し始めるのだった。 (「大学を卒業したら趣味も卒業」完)    
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