春水にとける

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 そんな彼のことが、王水角は知りたくてたまらなかった。  献上したくて、たまらないのだ。  何を――  王水角は、ふっ、と意識が遠のいていく感覚を覚えて、立っていられなくなった。 「教えてやってもいい……」  視界がぐるぐると揺れる中、囁く白金商の声がする。  耳を触れる、甘く、濡れた、吐息。  倒れかけた身体を抱きとめる、彼の指先が、芳しい花の香りを帯びていた。 「歌は、数千年前から、どうぞ、お入りくださいと、そう言っている。私の歌の聞こえるところ、私の侵入できないところはない……」  胸を擽る歌声が、雨音を縫って聞こえていた。  水たまりを触れる雫の音が、王水角を少しずつ暗やみに落としこむ。  そのうちに、首筋を、あたたかな息づかいが這っていた。  シャツの間に差し込む掌が、熱を奪うように、肌の上をなでつけて、じっくりと、永遠と続くような痛みが、胸の辺りに走った。 「血を、献上する者、我が眷属とならん……」  王水角の肌は、花の香りが縺れる暗がりにのみ込まれた。  白金商が咽を鳴らしてなめあげて、彼の肌から離れたとき、艶やかな唇の端を赤い筋が流れていた。  王水角はぐったりと倒れたまま、低く蔓延る彼の歌に、酔いしれた。
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