メダカ

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メダカ

 僕たちは、同じ親から生まれてきた兄妹です。水草につかまって、1ヶ月くらい経ちました。最近、水温の高い上のほうで生まれた兄さん姉さんが孵化していきます。先に孵化した兄妹たちは、スイスイ、キラキラ、チョロチョロと楽しそうに泳いでいます。 「兄さん、僕はいつ孵化できるのかな?」 「卵の中で、ちょっと回ってごらん」 「こう?」 僕は頭を下にして、卵の中で1回転しました。 「おぉ、明日か明後日には孵化できるよ!がんばれぇ~」 兄さんは僕を励ますと、スーッと、どこかへ行ってしまいました。僕も早く、兄さんのようにスイスイ泳ぎたいと思いました。僕は、近づいてきた姉さんに聞きました。 「姉さんは、いつ孵化したの?」 「3月20日、春分の日よ」 姉さんは誇らしげに言いました。 「その日は、何か特別なの?」 「春分の日に孵化するとね、赤く光る鱗が出てくるの♪」 姉さんは体に光を当てて、くるくると泳いでいきました。なるほど、生まれた日によって違う様子になることがわかりました。じゃあ、僕はどんな感じになるのか、気になってきました。近くを通りかかった大人に聞きました。 「おじさん!明日は何月何日?」 「4月1日だよ」 おじさんは僕を見ると、続けて言いました。 「キミは明日、孵化するな、きっと…こりゃ、大変だ!」 おじさんが大きな声を上げました。僕はびっくりして、卵の中で飛び跳ねました。 「4月1日生まれとなると、一大事だ!おーい、みんな!集まってくれ」 おじさんは仲間を集めました。 「この卵は、明日孵化するんだよ。つまり4月1日だ!」 「なんだって?!えらいこっちゃ!」 「4月1日ですか…はぁ~」 大人たちは僕の周りに集まって、口々に何か言っています。僕は、だんだん怖くなってきました。 「おじさん、4月1日に孵化すると、どうなっちゃうの?」 おじさんは言いにくそうに、口をもごもごさせました。優しそうなおばさんが、僕に近づいてきました。 「ところで、あなたは、どんな大人になりたいの?」 「兄さんみたいにスイスイ泳いで、姉さんみたいにキラキラ光る大人!」 僕がそう言うと、おばさんは残念そうな顔をして、下へ潜っていきました。すると、鋭い目つきの大人が近づいてきて、僕にちょっと触れて言いました。 「4月1日に生まれたら、自分の正直な心は逆さまになるんだ。だから、本当になりたい大人と正反対のモノになってしまうのさ」 「えっ?!じゃあ、僕はスイスイにも、キラキラにもなれないの?!」 「そう。しかも、今さわってみた感じだと、僕たちの仲間じゃなくなる可能性もあるな」 鋭い目の大人はそう言って、僕の卵を尾びれでたたきました。僕は、卵の中で泣きました。卵の中がしょっぱくなるくらい、涙が出ました。 「僕は、みんなの仲間じゃないの?」 「それは孵化してみなければわからないのさ。明日まで待ちな」 僕は心の底から震えがきました。もう、孵化したいなんて、ちっとも思っていません。だって孵化してもスイスイじゃない、キラキラじゃない、僕は何になるのかわからないんだから…  翌日、4月1日です。僕は孵化しました。昨日から僕は、大人たちに囲まれて、じろじろ見られていました。小さな兄妹たちは、大人に追い払われて遠くで泳いでいます。 「出てきたぞ!」 「ウソメダカが生まれたぞ!」 「こいつはヤゴになりやがった!」 「メダカがヤゴに転生するなんて!」 「キャー!早く!どこかへ連れて行ってよー!」 「4月1日のウソメダカが、オレたちの天敵になったぞー!」 「気をつけて!捕食されちゃうわー!」 僕を見た大人たちは殺気立っていました。僕は大人たちが泳いで作り出す渦に乗って、ぐんぐんと上の方へ引き上げられていきました。そして、水面に浮かぶ水草の上に乗せられて、とうとう水の上に出てしまいました。でも、僕は苦しくありませんでした。 「あれ?!ヤゴがいる!どこから入ってきたんだろう?まぁ、いいや。別のケースで育てて、トンボにしよーッと♪」
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