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シマヘビ
温かくなっちゃったな。卵からでなきゃ、いけないんだろうな、きっと。本当は、ずっと卵の中にいたいのにさ、どうして外に生まれちゃうんだろう。ボクは、次第にはっきりしてくる感覚に、ウツウツとした気持ちでいました。卵に亀裂が入り、外部の土の柔らかく香ばしい空気が、鼻先にとどきました。
「あー、やだよー!ボク、動くの嫌いだし!」
卵の隙間から目玉だけをのぞかせて、外の世界を見てみました。
「あっ、そこの石の隙間!卵から出たら、そこへ行こう!」
ボクは卵のすぐ近くにある石の隙間を見ていました。そこなら安全だし、動かなくてもよさそうでした。でも、ずーっと見ていたら、中で何かが動きました。
「あっ!誰かいる…誰だろう…イヤだな。もし、ムカデだったらどうしよう!食べられちゃうじゃん!ダメダメ…ダメダメ。そこに行くのはやめよう」
ボクは、別の場所を探しはじめました。少し先に、川が見えました。
「そうだ!川の中に入っちゃおう!」
そう思いなおして、川を眺めていました。すると、そこにアオサギが舞い降りました。
「うわぁ!ダメダメ!!!食べられちゃう。川はやめよう…」
ボクが卵の中で動くたびに、卵の亀裂は大きくなっていきます。そして、とうとう、頭が卵から飛び出してしまいました。
「ひゃー!ひゃー!ひゃー!」
ボクは焦りました。このままじゃ、人間に踏みつぶされるかもしれないし、タヌキか何かに食べられてしまうかもしれません。
「ひゃー!ひゃー!ひゃー!」
ボクは必死に叫びました。
すると、その時、ボクの体がふわっと浮かんだ気がしました。ボクを包んでいた卵は、どんどん小さくなっていきます。確かに、ボクは浮かんでいます。
「ボウズ。あぶねぇところだったな」
美しい声で、誰かがボクに話しかけています。
「誰?ボクを助けてくれたの?」
「おめぇのオヤジだよ。まったく、巣から落ちやがって、あぶねぇじゃねぇか!」
ボクを木の上の巣に入れると、お父さんはボクを放して、くちばして枯葉や土を取ってくれました。
「えっ?!?!」
ヒバリ?!ボクのお父さんじゃない!
「ごめんなさい!食べないでください!!!」
「何言ってやがるんだ、ボウズ!食べるわきゃねぇだろ!」
「だって、ボク…生まれたてのシマヘビは、ごちそうでしょ?」
「はぁ~~~?」
ヒバリはポカンとしていました。そして、翼でボクをゆっくりなでました。
「どっから、どう見ても、立派なヒバリのヒナだぜ」
ヒバリは、ボクをなぐさめるように、優しい声で言いました。でも、ボクにとってみれば、次の瞬間パクリと食べられてしまうんじゃないかって、生きた心地もしませんでした。プルプル震えていると、もう一羽ヒバリが飛んできました。
「アンタ、おそくなってごめんよ」
「おぅ、おけぇり!このボウズが、おかしなこと言いやがるんでぃ」
「ボゥ?どうしたってぇ?」
「卵が巣から落ちちまってよぉ。ちょうどそん時に割れたんだろうな、ボウズが顔を出していたから、いそいで拾いに行ったんだ」
「アンタ!卵を落としちまったんかい!!!」
「い…いや…その…でな…」
「もー!やっぱり、任せるんじゃなかったよ!食事は明日までがまんしときゃよかった…」
「それじゃあ、おめぇが死んじまうじゃねぇか。やだよ、オイラ一人で育児なんか務まるわけがねぇや!」
「そりゃそうだぁねぇ。でもさ、今日ってのはね、わけがあるんだよ」
「なんだい?わけってよぉ~」
「今日は4月1日だろ?今日生まれると、本性とは似ても似つかぬ姿になっちまうんだよ」
「へぇー、それでか!」
「なにがさ?」
「ボウズがよぉ、自分をシマヘビだってぬかしやがるから、落ちた時に頭でも打っておかしくなっちまったんじゃねぇかって、思ってたところなんでぃ」
ボクはお父さんヒバリの腹の下から顔を出して、もう一羽のヒバリにあいさつしました。
「ど、どうも。ボク、シマヘビです…か?」
「あら、かわいいボゥ♡お母さんだよ」
「ボク、シマヘビ…」
そう言って、お父さんヒバリの下に潜ろうとしました。すると、お父さんヒバリがくちばしで、お母さんヒバリのほうへボクを押しやりました。
「そうかい、ボゥはシマヘビだったのかい。でもね、今日生まれちまったから、シマヘビには、なれなかったんだよ。縁あってウチに生まれてきてくれたんだ、アタシたちが立派なヒバリに育ててあげるよ」
ボクはのどの奥から突き上げてくるような、苦しいような嬉しいような、よくわからない塊を感じました。
ボクは泣きました。
「ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!ひゃー!…」
よくわかりませんが、泣きつづけました。
「ほら、アンタ!ボゥに発声練習してやってちょーだい!」
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