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無論、目的地もないのでどこに行ったって構わない。
なんとなく向こうに山が見えるので、とりあえずそっちに行くことに決めた。方角で言うと北だ。
この街は駅の北側すぐの道が古びた商店街になっており、その次の区画からは住宅街が広がっている。
古都は趣のあるセピア色の商店街を何枚か写真に収める。
古びた傘立て、色褪せた食品サンプル、たまたま居た猫。
この場所ではポイ捨てのタバコでさえ画になる。良い雰囲気だ。
次は商店街を抜けて住宅街の方へ。
歩きながら古都は考える。この道も平日は自分の知らない人たちの往来があり、その一人一人に物語があるのだろう、と。そう思うとどんな道でも色がついて感じられる。
住宅街を歩いていると目に入るのは季節を彩る生き物たち。
家を守るブロック塀には青磁色や白緑の地衣類、その下にはナギナタコウジュやシロザといった植物が生えている。
家と家の間、ちょっとした空き地からシソやヤナギハナガサが道路に手を伸ばしている。古都はそれらを写真に収めた。
そんな中、ふと子供の声が聞こえてきた。遠くだがなんにんかが遊んでいるような声。少し先に公園があるのだろうと考え、古都はその声の方に歩き出す。
声の方に少し歩いていくとすぐに公園が姿を現した。子供たちが遊んでいる姿をみると、この時代に外に出て遊んでいる彼らになんだかエールを送りたくなる。
古都に人を、ましてや知らない子供を写真にとる趣味はないので、なんとなくいい感じの遊具を、秋晴れを背景に下から写真に収める。
そしてベンチに座って子供たちの声をBGMにここまでの写真を見返し、整理を始めた。
少しすると彼らの母親らしき人たちがやってきた。
「ほらーパン食べるよー」
その声に彼らは母親たちの方へ一直線で走っていった。見ると手にはたくさんのパンが入っていると思われる大きめの紙袋が握られている。近所にあるのだろう。
お昼ご飯を特に食べていなかった古都は少しそのパン屋に興味が出て探してみることにした。
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