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「タイ料理、食べたことありますか」
渋谷に着き、川瀬が案内してきたのは
一軒のタイ料理店だった。
「パクチーっていうの?アレはあまり
好きじゃないかも」
そっと小声で伝えると、川瀬は小さく頷き
「実は俺もダメでした‥‥でもこの店のは
何故か大丈夫で。日本で栽培されてるのを
使ってるって聞いたからかも」
と言った。
「そうなんだあ。じゃあ食べてみようかな」
「岸野さんて」
川瀬が今にも吹き出しそうな表情をしている。
「何」
「めちゃくちゃ素直なんですね」
「え」
「会社では仕事できるし、優秀な上司って
いう感じなのに、仕事を離れたら何と言うか
‥‥かわいいんだなあと」
かわいいと言われて、恥ずかしくなった。
何だ、この感情。
誤魔化すようにして、ビールを煽った。
「あ。来ましたよ。パクチー盛り」
「うわ、緑一色」
これで口に合わなかったら逃げ場がない。
やや危機感を抱きながら、
川瀬に勧められるまま一口食べてみた。
「おいしい‥‥!」
「でしょ。癖になるというか」
川瀬が心から嬉しいという顔を見せてきた。
ドキドキした。
俺は次々とパクチーを口に運び、
ビールを流し込んだ。
初めて、川瀬のことが好きだと思った。
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