本編

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「岸野さん」 それまで沈黙を貫いていた川瀬が箸を置き、 俺を見つめてきた。 「何だよ、川瀬」 「佐橋さんと付き合うんですか」 川瀬のメガネの奥にある瞳が鋭く光った。 「え。まあ、悪くない選択かなって」 「ダメです」 「‥‥は?」 唖然とする俺に、川瀬は呟いた。 「岸野さんは、俺と付き合うんですから」 その言葉を聞いた途端、心が波打った。 「もう一度言います。岸野さんと付き合うのは 俺です。佐橋さんには絶対に渡さない」 川瀬の言葉が、容赦なく俺を射抜く。 震えが足元から上がってきて止まらない。 こんなに心を揺さぶられたのは初めてだ‥‥ 「岸野さん、返事は?」 川瀬がまっすぐ俺を捉える。 ああ、絡め取られていく。 「え。え、岸野さん?」 佐橋の焦る声がした。 俺は無意識のうちに川瀬に手を伸ばし、 川瀬の手を掴むと 「よろしくお願いします」 と頭を下げた。
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