歯車、一つ

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歯車、一つ

「あの時、高校の入学式が始まる前、教室に集合していた時、拓ちゃんが前の席で私が後ろ。松尾君が隣で松尾君と二人で話してたっけ。あの席好きだったな。桜が綺麗に見えたから」 「そうだね。俺が和希と話してたんだ。始めてのクラスで不安でさ。いたたまれなくなって和希に話し掛けた。それがきっかけなんだよな。そうそう。窓際がピンクに染まってたっけ」 「そうね。拓ちゃんたちが部活動の話をしてて。話の内容がバレー部と弓道部。松尾君が新しいことやりたいから弓道部なんて言ったら拓ちゃんが新しいことやるって大切だからなんて気障なこと言っちゃってさ。でもこの人、格好いいこと言ってるなって、なんとなく思っちゃって。それからだな。拓ちゃんのことがなんとなく気になったのは。それがスタートだね」 「美郷の中のスタートで。だけどそんなこと思いもしなかった」 「そんなの当然よ。まさか私も好きになるなんて思いもしなかったし」 「俺らって盗み聞きばかりだな」 「盗み聞き得意よ。私……」 「危ないやつだな、美郷は」 「へへへっ。用心しなさいよ。拓ちゃん」 「用心しないとな。ほら、もうすっかり暗くなってきたよ。この辺りの家の部屋明かりがポツンポツンって。この辺りは夜空が綺麗だろうな。明かりが少ない。俺、昔から夜空見るの好きだったからさ」 「へぇ、初耳。拓ちゃんてロマンチストなんだ。見て、見て拓ちゃん。星が出始めてる」
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