0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
1
「禍金機械商会…聞いたことないんだけど。飛び込みでこられても、うち、もう長い付き合いの機械商がいるからねぇ」
室内鉄工所の事務室の片隅のパーティションで仕切られただけの簡易な応接室で、作業着を着た初老の男、室内 響が、差し出された名刺を一瞥し、黒髪のおかっぱ頭に黒縁の眼鏡、黒い背広の出る所は出て引っ込む所は引っ込むナイスバディ、禍金 忌離子に言うと
「いえいえ、社長さま、当社は消耗品の発注や工作機械の導入だけでなく、萬、工場のお困り事、悩み事の解決をお手伝いさせて頂いております」
「悩み事ねぇマシニングで、何か言ってなかったか?」
パーティションの横から首を突きだし、事務机の並ぶ一角に、呼び掛けるようにしたが、さっきお茶を出して引っ込んだばかりの田中の返事は無い
「なにか、お困り事が」
「ああ、ウチさぁ旋盤屋だって言うのに、元請けが五月蝿くてマシニングセンターなんか、商工会議所に借金して導入してしまって、数値制御のフライス盤やっていた熟練工は『60歳を過ぎたら一旦定年退職で同じ仕事をして給料は3分の1で再雇用?馬鹿にするな!』って、辞めちゃって、ずっと求人は出しているんだけどねぇ若い即戦力が欲しいのに、そう言うの全く応募が無くて。人手不足で上手く行かず。その製造工程なんだけど」
「それでしたら…」
禍金がカサカサとファイルを捲り、一枚のA4用紙を取り出し、ローテーブルに置くと
「技術者のお悩み解決。それにインターネットのURL…アドレスか」
室内は印刷された文字を棒読みする
「はい、日本中の技術者が集い、製造に関する悩みに知恵を出しあい解決しようと言うサイトになります」
「まぁ、良いサイトだったらさ。禍金機械商会?ウチで使ってあげても良いよ」
「ありがとうございます、それでは1だけ注意点を、何しろ日本中の技術者が集うサイトになります。反対意見も必ず有る事と思われますが、無下にせず。耳の痛い意見こそ真摯に受け止める姿勢をお持ち下さい」
「ああ」
俯いて気の無い返事をした室内が顔を上げると、其処には、もう禍金の姿は無かった
最初のコメントを投稿しよう!