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「斯くなる上は…」
白く塗られた巨大な鉄の箱が立ち並ぶ、工場は鉄を切り裂く重い音に埋め尽くされていて、室内が4219番を加工するマシニングセンターに詰め寄り
「吉田。ちょっと交替ってくれるか」
と、言うと
「はぁ」
吉田は疲れきった表情を浮かべ
(主軸回転数を毎分3000回転から、4000回転に、それに合わせて切削送り速度も30パーセント増しで高速化)
ガガガガガガッ!!
マシニングセンターは、それまでより打って変わった轟音を立て始め、スプラッシュガードの透明なポリカーボネートの窓には容赦なく水溶性切削油剤が打ち付けられ、鉄の箱の内は白濁の闇に包まれ、重い鋳鉄のテーブルが手前に移動し、緑のランプが灯る
「ひぃぃ」
吉田は悲鳴を上げるが
「15秒、うふふふ」
右手にあるマシニングセンターのコンピューターディスプレイを凝視していた室内は不気味に笑い、スプラッシュガードを開けた先には、まるで有刺鉄線のような刺が並び立ち
「このバリは油砥石で落としといて、元請けが五月蝿いからな、これから1日に1000個。これでやって」
平然と言った
「ちょっと、戻して下さい。無理です。こんなの!」
吉田は抗議するが
「じゃ、頼んだよ」
と、一顧だにせずマシニングセンターを後にする
室内は事務室の自分の椅子に戻り、
〈出来たぜ15秒だ。誰だよ『限界』なんて言ったのはよ〉
PCにかじりつき、自分の立てたスレッドに書き込みをすると
〈にわかには信じがたいです〉
〈暴走させてると、いつか手痛いしっぺ返しを食らいますよ〉
〈無理です。戻して下さい〉
PCのディスプレイには室内を疑うレスポンスが立ち並び
「まったく『出来る!』って言ってるのに、ミュートだ、ミュート!」
怒りに我を忘れ、見たくない聞きたくない不都合な真実が含まれたレスポンスのユーザーは、片端から見えないように消音していた
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