ペトラと道標

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 ***  ×月●日。  あああああああああああああくそ、くそくそくそくそくそくそくそくそちっくしょう!!!!!!!  メルヴィンのアホが、なんで話を聞いてなかった!?あの歌を子供達が歌っていた現場にあいつもいたし、ペトラからも話を聞いてただろうが。なんで約束を守らなかった?異星人が約束だって言ったことを破ったら、大抵酷い目に遭う。先人たちに、口がすっぱくなるほど教えこまれてきたことだろうがよ!!!!!!!  あの馬鹿野郎。帰りの船の中で酔っぱらって、トリスタン星人の歌を歌いやがった。  確かに妙に耳に残る歌で、聞いてて楽しい気分になるなと思ったよ。油断したらついつい口ずさみたくなるような、謎の中毒性があるってな。だけど。  一体何がどうして、どういうからくりなんだ?  あいつがあの歌を歌って、つられて数人が同じ歌を合唱したら。地球に戻ろうとした俺たちは、またトリスタン星に戻ってきちまいやがった!  ちゃんと地球に座標を設定したし、歌を歌うまでは順調に船が航行していたはずだってのに、コンピューターが勝手に狂ったんだ。  しかも、しかもだ。  トリスタン星に戻ってきちまったところで再度船に地球の座標を入力しようとしたら――地球のデータが軒並み消えちまってやがる。  なんなら俺達の頭からも、だ。地球の座標とか、方角とか、どんな星雲に所属してたかとかきっちり頭に叩き込まれてたはずなのに、それらが全部綺麗に消えちまってるんだ。  なんなら、自分達の家族の名前や顔さえ分からなくなっちまった奴もいる。まるで何か見えない力が、俺たちを家に帰さないようにしてるみたいに!  それだけじゃない。  無鉄砲にトリスタン星から離れようと宇宙船を航行させても、確実に戻ってきちまうんだ。機械も人も、全部狂っちまってやがる。  地球への通信もできない。登録してた連絡先が全部消えてて、俺たちも思い出せない! 「だから申しましたのに」  トリスタン星のペトラは、それはそれは気の毒そうに、同時に迷惑そうに俺たちを見て言った。 「あの歌は“トリスタン星人が、必ず故郷に戻れるように”歌われるもの。理屈はわかりませんが、恐らく先人が、宇宙に出ては生きていけないトリスタン星人が母星から出て行かないように束縛し、保護するために開発したものなのでしょう。トリスタン星の外部に繋がる情報は、全て消えてしまうのも道理です」  残念ながら手立てはありません。彼女は冷たく俺たちに言い放ったのだった。 「申し訳ないですが、約束通り、この惑星に長居されませぬよう。……なんとかして宇宙で、自力で呪いを解く方法を模索してください。我々も、そのような方法は持ち合わせておりませぬゆえ」  なあ、俺たちはどうすればいいんだよ。  トリスタン星に降り立つこともできねえのに、惑星近くまで勝手に船が戻ってきちまう。俺たちに一生、地球に戻ることもどこかの惑星に永住することもなく、一生宇宙で生きていけってのか?  いや、それ以前に食糧は、燃料は?いくら長期任務だからって、詰んでるのは半年分の食糧までだってのに!  くそ、誰か、誰かこの日記を見つけた奴がいたら教えてくれ。俺はまだ無事か?生きてるのか?正気か?  たった一つの歌だけで全てが終わるなんて、そんなバカな話があってたまるかよ、なあ!!
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