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きらきらなファーストキス
「幻の四番、いい歌詞でしょ?」
「うん!」
にやりと笑みを浮かべる、さつきくん。
「作詞は、小林さつきだよ」
「もう、私の感動を返して」
さつきくんの胸を数回、軽く叩いた。
「泣くぐらいよかったなら、いいじゃん。歌詞の意味、わかった?」
「意味って?」
「意味わかったから、泣いたんじゃないの?」
「そうかなあ。歌声が綺麗だからじゃないかなあ」
「そんな……」
さつきくんは、がっくり肩を落としている。
「寝ないで考えた告白がこの結果かよ……ああ、もう!」
さつきくんは頬を赤らめて言う。
「好きなんだよ、かおりさんが……」
「え……」
「かおりさんみたいな子と毎日いっしょにいたら、好きになるよ。にこにこ笑ってハキハキしていて、かわいい……」
頭のなかで響く。さつきくんのよく通る声が。
好き、好き、好き……。
体が熱くなってきた。
「かおりさんは、僕のことをどう思う? 現代文学年一位の僕の見立てでは、かおりさんはかなり脈ありと思うんですが……」
さつきくんが私の手を取る。
「さつきくん、手……」
でも、さつきくんは離さない。
「どう思う、かおりさん」
「あったかくて、ホッとする……」
「手の感想じゃなくてさ……」
「ごめん! ずっとつないでいたいって思った」
「その理由、僕に説明できる?」
「あったかいからかな……わー、さつきくん、がっかりしないで! じゃなくて、えっと……」
私があれこれしゃべっているあいだ、さつきくんは私をじっと見つめている。
「見ないで……見つめられたら、言葉なんか出てこないよ。ドキドキするから……」
「そっか、ドキドキするのか!」
さつきくんは吹き出した。
そして、まぶしそうに目を細めて、私を抱きしめた。
「答えが出てんじゃん、かおりさん」
「うん……ドキドキするのってあれだよね」
漫画にドラマに映画にアニメ。あらゆるエンタメ作品のクライマックスで、主人公が気づく感情だ。
「恋だ……私、さつきくんに恋、してるんだ……」
「そうだよ。やっと気づいたか」
「好きなんだ、私。さつきくんのことが……」
「うん。僕もかおりさんが好き」
「両思いなんだ……」
「もちろん」
「あのさ。恋愛関係って、ひらがな仲間で小林仲間とはちがうよね?」
「レベルアップした関係だね」
「好きじゃなくなったら、離れ離れになるんだよ。いやだよ、そんなの」
「そんなことが不安なんだ。大丈夫だよ。好きかどうか悩んだら、立ち止まって考えればいいんだ」
「立ち止まって考える……」
「僕のことが好きじゃないって思ったら、ちゃんと話してね。本当にきみが僕を好きじゃなくなったか、ふたりで考えよう」
「うん」
「こんな風に僕といっしょに自分の気持ちをゆっくり考えたら、やっぱり好きだって気づけるから」
「さすが現代文学年一位。説得力ある」
「まるめこむのうまいからね」
「もう!」
私はまた、さつきくんの胸を何度も叩いた。
その両手を、さつきくんがつかむ。
「大好きだよ」
「私も」と返事をしたら、強く引き寄せられた。自然と私たちは寄り添う。
誰もいない教室。はしゃぐ声が遠くから聞こえる。さつきくんの背後の窓から、空を舞う桜が見える。
私たちは唇をかさねた。
初めてのキスは、陽の光に照らされた花びらのようにきらきらしていた。
さつきくんと私は、これからどんな一瞬を刻んでいくんだろう。私たちの未来には、忘れたくないくらいのたくさんのことが待っているはず。
全部、全部、宝物にしていくんだ。
楽しみで仕方なくて、私は胸がいっぱいになった。
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