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「そういえば、副島さんてカラオケには来られても歌われたことないですからね。すごい良い声だし、音程取れないわけでもないのに。まあ趣味ですから好き嫌いはあって当然ですけど」
雅の台詞に友里奈は納得したように頷いた。
副島 郁海は異性ながら雅の最も親しい友人だ。
大学に入学し、学部は違うものの同じサークルに入部して知り合った。
それ以来四年生になる今まで、常にべったりではないものの親友と言って差し支えない関係を築いて来ている。
この後輩が彼の名を出したのも、雅とよく共に過ごしていることが知られているからだろう。
それに加えて郁海は、先輩とはいえ彼女と同じく「裏方」メインで活動しているため気楽だというのもあるのではないか。
友里奈は舞台監督補佐をしている。
郁海は脚本・演出が本来の志望という差はあるが、メインで脚本・演出を担当する院生がいるためほぼ裏方のなんでも係だ。
「まあ二人でいいじゃん? 一人に声掛けて次々増えたらなんか消化不良になりそう。今日は力の限り歌いまくりたい気分なんだよね」
「わたしもです。じゃあ、……あ、サウンドスカイ空いてますよ! 残りわずかだそうです。ラッキー!」
話しながらスマートフォンを取り出して、行きつけのカラオケボックスの空室状況を確かめたらしい友里奈が声を上げた。
「よし、じゃあ予約入れて! 十五分後から。すぐ向かおう! ついでに夕飯もそこでいいか」
すでに心は「歌うこと」に向いていて、雅は歩き出しながら後輩を促した。
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