High&Low

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 (たぐい)まれな美貌に、天賦の才と(たゆ)まぬ努力に裏打ちされた実力。  基本的に舞台に立つ気はないと公言し裏方なら何でもする彼は、演技力も並ではなかった。  もしかしたら、小中学生時代は児童劇団に所属して役者を目指して来た雅よりも上なのではないか。  身長は百七十の雅と変わらないが、細身ながら鍛えられた身体で手足の長い彼は舞台映えするのだ。  本人はあまり気が進まない風だったが、「役者足りねえからお前もな!」と半ば強引に小さな役を割り当てられた際に舞台の上で目にした姿が目に焼き付いている。  あの姿勢の良さもよく通る声も、持って生まれたものに加えて訓練の賜物だろう。  最初は間違いなくこの身の内に燻っていた嫉妬心は、もう雅の中には見つけられなかった。  妬みや僻みに貴重な時間や感情のリソースを費やすより、その分自分にできることをするほうが建設的だ。その程度の意識は当然ある。  劇団でも今のサークルでも、有り余るほどの才能や容姿に恵まれた人間に囲まれて得た教訓だった。  同じ力の持ち主の群れから選ばれるための悪足掻(わるあが)きならまだしも、姑息な手段で役を得たところで自分に実力がなければ惨めなだけ。  たとえ周囲が気づかなかったとしても、己だけは騙せないからだ。  上に行くなら他人を引きずり落とすのではなく、自分が上がらなければ意味がなかった。  雅にその経験はないため偏見かもしれないが、「カット」でやり直しも編集で繋ぎ合わせもできる映像作品とは違い、観客と生身で向き合う舞台に誤魔化しは通用しない。
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