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◇ ◇ ◇
「そうだ、見城さん。俺、この間郁海さんとカラオケ行ったんすよ! すげえ上手いですよね! もうびっくりで──」
「おい、余計なこと言うな!」
大学を卒業して数か月。
郁海の部屋で、サークルの後輩である二年生の原田 祥真と三人で夕食にありついていた時だった。
食事の最中、郁海が料理を運ぶのにキッチンに立った合間のこと。
後輩が能天気に口にするのを、皿を持って戻って来た部屋の主が慌てたように静止する。
郁海は料理が趣味で、雅もよくこの部屋に呼んでもらってご馳走になっていた。
恋人がいる期間はそれもなくなっていたのだが……。
こうして彼の恋人である祥真も含め、妙な組み合わせで食卓を囲むのは二度目だ。
初めての食事会は、郁海は決して口にも態度にも出さなかったものの「後輩と付き合うようになった紹介」を兼ねていた、と雅は認識している
「は!? あんたカラオケ嫌いなんじゃなかった?」
「別に嫌いじゃねえよ。……ちょっと事情が、というか」
歯切れの悪い郁海に、祥真が横から口を挟んだ。
「郁海さんは、……あ、俺が言ってもいい、ですか?」
「今更遅えんだよ。もういいからお前が話せ!」
言葉も口調も不機嫌そのものだが、苦笑を浮かべた友人に「本当に嫌がっているわけではない」のは伝わった。
「郁海さん、めっちゃ歌上手いんすよ! ただ、すごく声が高いっていうか、……それでいろいろ言われんのが嫌で人前では歌わなかったらしいです」
「ほう、そういうわけか」
意外な真相に驚かされる。
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