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もし彼と二人でカラオケに行ったとしたら、互いに相手のことなど気にもせずに自分の歌いたい曲をそれぞれ勝手に入れて歌うだろう。
自然にそう振舞えることが、付き合う上で楽なのは確かだった。
「でもそういうの知ったら、郁海の歌聴いてみたいかも! どんだけ上手いのかって」
「別に大して上手くはねえよ。ただ高音出るのは間違いないな。そのインパクトで『すごい!』ってなるだけだろ」
雅の言葉に、彼は特に謙遜という風でもなく返して来る。
もちろん雅も、演劇に真剣に取り組む中で発声練習は欠かしていなかった。
ミュージカルという選択肢もある以上歌も学んでは来ていたし、歌唱力はともかく音域は広いほうだという自負もある。
これはライバル心とはまったく別次元で、郁海の「歌」には無性に興味が湧いた。
「……じゃあ今度、この三人で行くか?」
「いいね~、行こう!」
雅の隠しきれない、……隠す気もない好奇心が伝わったようで、仕方なさそうに切り出す友人に即座に答える。
「ああ、お前もいいか?」
「はい、行きたいです!」
彼を無視して決めたことを改めて確認する郁海に、祥真が明るく承諾した。
容姿に似合わず、地声はむしろ低い彼。
いったいどの程度の高音なのか。
祥真が手放しで「上手い」と言うからには、単に「高い声が出る」だけではないのだろう。
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