4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
結婚式では、当然皆は二人を祝福したが、正良の友人は沙夜子を見て、おまえ、美人はお断りじゃなかったっけと言い、正良は、いやそれが、こんなこと俺も予想してなかったと頭を掻き、沙夜子の親友は、あなた、私にあんなこと言っておきながら決める時はあっさりしたもんねと些か皮肉の目線で彼女に伝え、沙夜子は肩を竦めた。
二人の結婚生活は相性の良さもあって、文字通り幸せなものであった。そしてすぐに子供が出来た。
女の子が生まれ、正良が、彼女に百合奈と名付ける。
そして沙夜子が子育てを始めてからしばらくして、彼女は一人の少年の姿を朧げに感じるようになった。それは沙夜子が娘に乳を与えている時に起こる。
沙夜姉ちゃん、沙夜姉ちゃん・・・
彼女の耳に小さく響く少年の声。少年はいつも笑顔で沙夜子に腕を伸ばす。
翔太、翔太・・・
沙夜子は心中で彼の呼びかけに答える。
翔太、来てくれたの、私のもとに。
沙夜子が翔太を思い目を閉じると、真緑の鉄塔が瞼に浮かぶ。
翔太、私は、あなたを忘れた日はなかった。
いいえ、一時の幻でも構わない、あなたが私の側にいてくれるなら。
翔太、私にもっと笑顔を見せて、私に。
沙夜子は乳を飲む百合奈に口づけした。
最初のコメントを投稿しよう!