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沙夜子は翔太を外に連れ出す。
「沙夜姉ちゃん、俺まだ帰りたくない、アパートなんか嫌」
もう少しいさせてよ、今日が最後だから、翔太は懇願する。
「大丈夫、あなたはそんな所に戻らなくてもいいの」
沙夜子はしゃがんで翔太と目線を同じにした。
「翔太は必ず私が守る、ね、私を信じて」
沙夜子は柔く翔太の手を握る。翔太は、沙夜姉ちゃんと別れたくないと消えそうな声で呟いた。
二人は家の裏手にある山道から外れて歩き鉄塔の前に立った。沙夜子はその間、周囲に人目がないのを念入りに確認した。
鉄塔の基部は大きめの物置となっていて、前面にはドアが付いている。
沙夜子の祖父が脳溢血で入院していた時、沙夜子が見舞いに行くと、祖父は半身がマヒしている中で、彼女に鉄塔のカギのことを教えた。書斎の引き出しの二段目にそれがあるからと。
俺はもうダメかもしれん、若い頃の不摂生が祟ったかな、沙夜子、おまえに最後のプレゼントだ、お母さんには内緒だぞ。
沙夜子はカギを差し込みドアを開ける。むあっとした湿った空気が外に流れた。
「翔太、入って」
沙夜子が中に足を踏み入れると翔太もおずおずと従った。そこは四畳ほどの空間になっていて、高さもそれなりにあり、脇には埃にまみれた大きな看板が三つ立てかけられていた。
あの時はここにお祖父ちゃんの所有していた宝飾品があった、丁寧に布を被せられてしっかり箱に入れられて、全部で八つくらい。さすがに私も全部貰うわけにもいかず、お母さんに報告した。お母さんは、よくもまあこんな所に、税金対策なのと呆れていたっけ。
だが沙夜子はその中の一つ、桐の小箱に入れられた最高級の天然水晶に見入られて、それを密かに己の物にした。その水晶は今でも自分の部屋に隠し持っている。
沙夜子はスカートが汚れるのも構わず床に座った。翔太も沙夜子に身を寄せる。沙夜子は翔太の肩を抱く。彼女の心中では、風呂場で見た翔太の裸体がそのまま水晶の美と重なった。無論、沙夜子は翔太の精神が透明な水晶のように清純などと言う気はない。だが彼の姿と体つきは、作為なき天然の美という点でその水晶と相違はなかった。
それに外見や性格がどうこうじゃないのよ、翔太がもう少し普通の家庭の子だったら、でもこんなのはない。
開けられたドアから雨音が聞える。閉じられた二つの傘の先端からは雨水が滴っていた。
沙夜子は上着を脱いだ。次いで下着も外す。十四歳にしてはたわわな乳房が翔太の両目にくっきりと映った。
「翔太、私に甘えて」
今日が最後でしょ、沙夜子は翔太を抱き寄せてキスをした。翔太は涙ぐんで沙夜子の唇を味わい、彼女の首筋に自分の口を押し付け、乳首に強く吸い付いた。
あっ、あっ・・・
沙夜子は喘ぐ。加えて翔太の荒い息遣いが絶えず彼女の乳房に吹きかかる。
翔太、愛してる、愛してる。
「沙夜姉ちゃん・・・」
翔太は両腕を沙夜子の背中に回し、乳房に顔を埋める。
翔太、私の翔太。
沙夜子は両手で翔太の頭部を抱き、全力で乳房に押し付けた。うっうっ、沙夜姉ちゃん、翔太は息が出来なくなり、体を離そうとする。しかし沙夜子の力はそれを許さなかった。さ、沙夜姉ちゃん、苦しい、翔太は体をびくつかせて抵抗するが、それも段々弱くなっていく。
翔太、ごめんなさい。
やがて翔太の体は動かなくなった。それでも沙夜子は息を吹き返すなんてあってはならないとだらんと力を失った翔太の顔を乳房に押し続けた。
それは沙夜子にとって決して失敗するわけにはいかない殺人であった。
ぴくりともしなくなった翔太を沙夜子は床に寝かせた。彼女は翔太の口の唾液をハンカチで拭き、彼の両目を撫でて閉じた。
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