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彼女の後姿を見送り、吸血鬼は、地面に広がるクローバーに視線を落とした。
ひょっとしたら、これが、朔なりの甘え方なのかもしれない。
……けれど。
「さすがにこれは、受け取れないだろ……」
吸血鬼は手を伸ばすと、四つ葉の葉柄に指を這わせ、手折る。
日本では一般的に、四つ葉のクローバーは幸運の象徴として知られている。
他の国でも、大体同じようなものだ。「幸運」。「約束」。「私を想って」。
しかし、あの時、朔はわざわざ英語で「プレゼントする」と言った。それはつまり、花言葉も英語で解釈することを示しているのだろう。
英語での花言葉は、『be mine』。
『私のものになって、私を想って下さい』。
葉っぱ一枚に、なんて重大な意味を込めるのだろうか。
――吸血鬼さんなら、どれが嘘でどれが本当か、わかってくれると思ったんです。
(……そうだね。僕も――)
苦手だけど、嫌いではない。いくら嘘をつかれても、今更嫌いにはなれないだろう。
「花言葉で草花をやりとりするなんて青臭い真似、久々にしたな。……草だけに」
吸血鬼は昔を懐かしむようにそっと笑い、それから、手の中の四つ葉を弾き飛ばした。
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