化け物と春の嘘

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「それ、ひどくない? ねえ、ひどくない? 一緒に空飛んだり、蝙蝠(こうもり)に変身したり、僕、結構、頑張ったと思うんだけど!?」  確かに、最近は血を飲んでいないため、体質は人間のそれとさして変わらない。おかげで太陽の下も十字架も平気だが、血を飲みさえすれば吸血鬼の力をいかんなく発揮できることを、朔は知っているはずだ。 「頑張りすぎはよくありませんよ。さっさと謝って、進路を変更しましょう」 「進路って何!? 君は一体、僕をどこへ向かわせたいの!?」  朔につられてついこちらまで声が大きくなっていく。それは向こうも同じなようで、唇を引き結んでいた姉の方も声を荒げ、弟と言い合いになっていた。 「あ、実は先ほど、吸血鬼さんのマントに牛乳をこぼしてしまったんです。香水を振りかけてごまかしましたが、匂いますか?」 「……え!?」  姉弟の様子に気を取られていた彼は、朔の言葉で意識を引き戻された。 「ちょ……っ、マントを脱がせたのはそういうこと!? か、確認させて!」  慌てて立ち上がろうとした吸血鬼の腕を、朔が素早くつかんで引きとめた。 「大丈夫です、嘘ですから。ただ、先日、鞄についてしまった鳥の(フン)を拭いたり、ハンカチを忘れた時にマントを切り取って代用したりしたのは本当です。ですが、正直にうちあけたので許してくれますよね? 今日は、(こころよ)く許さなきゃいけない日ですもんね?」 「か、拡大解釈しすぎじゃない!? エイプリルフールは、そんな万能な日じゃないよ!?」 「なんちゃって」 「~~っ。……言っとくけど、『なんちゃって』も、魔法の言葉じゃないからね?」  一瞬慌ててしまったが、冷静になって記憶をたどると、朔が言ったような形跡はマントには見当たらなかった……はずだ。だから、確かに、たわいのない嘘なのだろう。  しかしそれにしたって、マントの、ひいては自分に対する扱いに容赦がなさすぎて心が痛む。  向こうでは、姉に怒られて弟が泣き出してしまったようだが、こっちも泣きたい気分である。
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