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「そうですか? 私は全部許せますよ? 完璧な人間なんていませんからね。ほんのちょっと年上なだけでただの人間の吸血鬼さんが、間違えたっておかしくなんかないですよ」
「僕は人間じゃないけどね! ちょっとどころか、何百年も年上だけどね!」
吸血鬼がふてくされてそう言い放つと、朔が口の端を上げた。
「嘘ばかりついていると、そのうち癖になってしまいますよ。閻魔様に舌を抜かれてしまいます。取り返しがつかなくなる前に、正しい道に戻りましょう?」
「どの口で言うんだい? その言葉、そっくりそのままお返しするよ!」
そのとき、向こうの方で、ひときわ大きい声が聞こえた。五感の鋭い吸血鬼だけでなく、人間の朔にも聞き取れるほどの大声だ。「あ……」と声をもらし、朔の表情が曇る。
『お姉ちゃんなんか、大嫌いだ』。
そう言われた姉の顔は、遠目でも赤く染まって見えた。こぶしを握って耐えているようだが、限界に達するのも時間の問題だろう。
吸血鬼はため息をつき、声を潜めて隣に囁く。
「それで、どういうことなんだい? そろそろ事情を説明してくれてもいいだろう?」
「……そうですね」
朔は一度目を伏せた後、声を落として話し始めた。
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