あの子の話

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あの子が、死んだ。 古びたビルの屋上から落ちて死んだ。 何故あの子が死ななければならなかったんだ。 あの子はただ、微笑んでいただけなのに。 葬式に出たクラスメイトは笑っていた。 僕はそれに吐き気すらする。 死んだんだぞ。 お前達が傷付けたあの子は。 呼吸が苦しい。 心臓が痛い。 でも、あの子はもっと辛かったはずだ。 お前達があの子を殺したんだ。 こんな世界があの子を殺したんだ。 幸せになるべきあの子を殺したんだ。 でも、僕もあの子を殺したんだ。 包丁の先に赤い液体が付いている。 その血は何の血だろう。 あの子の心臓から流れた血も、同じ色をしていたのかな。 僕の心臓から流れる血も、同じ色をしているのかな。 お前達の血と、違う色をしているんだろうな。 この手を伸ばしても、あの子は救えなかった。 もっと早く伸ばせば、届いたのかな。 僕の心臓に刺さった包丁は、あの子と同じ物なのかな。 わからない。 同じだといいな。 でも、違うんだろうな。 あの子の心臓は。肉と皮膚に覆われて、誰も見えなかった。 ああそうさ、後悔しているんだよ。 もっとあの子に近づけば、もしかしたら、間に合ったのかもしれない。 でも、もう遅いんだ。 もう、手遅れなんだ。 後悔なんて何にもならない。 でも、僕は後悔する事しかできないから。 でも、僕は、 ああ。 僕の眼球から、泪が流れればいいのに。
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