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「食事もここで……?」
「当たり前だろ」
高級な場所で食事をしたことなどないから、ここのレストランの正確な値段はわからない。だけど確実にお高いのはわかる。ドレスコードがあるくらいなのだから。
「あの、今日って記念日かなにかですか?」
「君の誕生日なのか?」
「違いますよ! だから戸惑っているんです。私食事ってどこか居酒屋とか、カフェとか、ファミレスとかそういう……」
「俺にとってはここは馴染みの居酒屋みたいなもんだ。俺が食べたい店に来ただけだから君は何も心配するな」
「えぇ……」
美山さんは実はどこぞの御曹司かなんなのだろうか……。戸惑っている私を見て、美山さんは楽しそうに笑った。
「でも確かに記念日にするのもいいな。付き合った記念日にするか」
「誰の記念日ですか」
「俺と君の」
冗談なのか冗談じゃないのかわからない口調で美山さんはそう言うとエレベーターに乗り込む。二人きりになったエレベーターで、美山さんは繋いだ手を引き寄せた。
軽く抱き留められる形になり、彼の匂いが私をくすぐり身体が熱くなる。
「それで返事は?」
「へ、へんじって……」
「俺と付き合う?」
「と、突然ですね!?」
「そうか? 君は俺のことが好きだと思ってたけど」
いつもは髪の毛に隠されていた瞳が、まっすぐ私を見つめる。美山さんの瞳ってこんな形をしていたんだ。……じゃなくって。
「す……すごい自信ですね」
その瞳の熱さに、まっすぐさに、私は目をそらすけれど。彼はがっちりと私の肩を抱いている。彼の胸板に軽く押し付けられ、その温度に悲鳴をあげそうになる。
ど、どうしよう……。どくどくと心臓が波打つけど、これは嫌な音じゃない。
だって、美山さんに惹かれ始めていたのは事実だ。もう恋愛で傷つきたくなくて、その気持ちに気づかないようにはしていたけど。
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