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だけど、こんな急に問われるとは思っていなかった。
「もしかして君はいつもの俺の方が好きか?」
「いつもの?」
「眼鏡でジャージを着てる俺」
そう言われてみると、美山さんがモデルのような出で立ちをしていたことに改めて気づく。
「あ……そういえば今日は見た目がずいぶん違いましたね。営業に行ったからですか?」
「それはそうだが……はは」
美山さんは無邪気な少年のような笑顔を見せた。
「君はどちらでもいいのか、まさか」
「見た目の話ですか? ……いえ、営業に行く日はそりゃもちろん今日の方がいいと思いますよ」
「……はは、あはは」
おかしそうに美山さんは笑い続けるから、私は焦って言葉を続ける。
「な、内勤の日はどっちだっていいと思いますよ! 別にどんな格好でも仕事の出来は関係ないと思いますし」
「そういう問題じゃなかったんだが……でもよくわかった。なずなはどっちの俺も好きってことだな」
初めて名前で呼ばれて、あたたかい眼差しを向けられる。
「……好きとは言ってないですよ。どちらでも問題ないというだけです」
「わかったわかった」
だけどきっと表情でバレバレなのだ、私の気持ちは。
エレベーターが最上階について、美山さんが腕を差し出した。今日くらい少しだけシンデレラ気分を味わうのもいいかもしれない。
私は素直に腕を取って、レストランに向かった。
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