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小久保さんは企画を考えるのは本当に苦手なようで、早々に音をあげた。
「私、企画はできないかもしれません……」
ミーティングを兼ねたランチで小久保さんは岡島さんに向けて悲し気に切り出した。
「私と吉平さんを足して二で割れたらいいのになぁ。私は営業の自信はありますけど企画は苦手。吉平さんはその逆です。……というか、そもそも吉平さんってあんまり営業っぽくないですよね。なんで企画営業に配属されたんだろう?」
小久保さんがキラキラした瞳でこちらを見る。ふんわりとしたブラウスにアイボリーのスーツ、コーラルを乗せたメイクも華やかだ。
たいして私は見た目も地味だし、あまりトークもうまくない。……だけど……彼女のようにクライアントと会話が弾むことはなくとも誠実に対応してきたつもりだ。苦手ではあるけど、出来てないってことはないと……思う。
「吉平の企画力はすごいからな」
岡島さんの優しい声が降りてきて安堵する。
なぜ私が営業になったのか改めて訊ねられると不安がこみ上げるけど、PRの内容を考えるのは好きだし、その企画力を買ってくれているクライアントもいくつもある。それを岡島さんが評価してくれているのも嬉しかった。
「でもたしかに二人は得意なことが異なるな。小久保の評判はクライアントからも聞いてる」
「あ、じゃあじゃあ! 吉平さんは企画を考えて、そのあと私がクライアントとやり取りして進行していく、みたいに私と吉平さんで担当わけちゃいますかっ?」
「え……それは困ります……」
クライアントとの打ち合わせは企画を練るときも重要だ。実際に生の声を聞いてそれを反映するだけでも成果は全然違う。会社の中にいるだけではわからないことだって多いのだから。
焦る私に小久保さんは楽し気に笑った。
「うふふっ、冗談ですよ」
「本気にしたのか? 本当に吉平は冗談が通じないな、ははは」
「クライアントの冗談、ちゃんと流せてますかぁ?」
嫌味混じりの問いかけに、曖昧に笑うしかなかった。
そして冗談だと言ったはずなのに、本当に私はクライアント先にいくことが減った。「新規案件の窓口は私が担当しますよ、適材適所です」と小久保さんが微笑むと岡島さんも頷く。
今まで私が担当していた企業はなんとか譲らずに済んだけれど、新規の営業先はなくなった。
そしてそれから二週間ほどたって、突然私は岡島さんから別れを切り出される。
直接話すこともなく「ごめん、別れたい」とメッセージだけが届いた。
プライベートの電話やメッセージは無視され、会社でも二人きりにならないようにのらりくらりとかわされる。冷たく拒絶する瞳を見てもう無理なのだと悟れば「別れたくない」と縋りつくこともできず、理由を聞くことさえできなかった。……こんな気弱な自分が本当に嫌になる。
そして別れの理由は気づきたくなくて気づいてしまう。目の前にいれば。
他部署の有希でもわかるくらい二人は親密で、物理的な距離も近かったのだから。
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