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堅実に真面目に生きて、普通の幸せがあればそれでいいと思っていた。
だけど私の「普通の幸せ」はこの二カ月で崩れ去ってしまった。……彼女が入社してきてから。
・・
「B社に行ってきまーす! 行きましょう、岡島さんっ」
にこやかな笑顔を私に向けてから、真新しいベージュのスーツを着た小久保さんは隣にいる岡島さんを見上げた。岡島さんは優しい笑みを返し、そのまま二人は寄り添うようにオフィスから出て行った。
「なずな、いいの?」
二人を威嚇するように見送るのは、私の同期であり親友の有希。有希は呆れた目をそのまま私に向ける。
「B社ってなずなが企画考えた会社でしょ」
「うん。でも……適材適所だから」
「それいつも言われてるけど、いつもいつも美味しいとこ取られてない? それよりも二人のあの距離、なんなの。知ってるんでしょ、岡島さんとなずなが付き合ってるって」
ずきり。胸が小さく悲鳴を上げる。
「……実は先月振られちゃったから。二人の距離が近くても私が何か言う権利はないんだ」
「はあ? 聞いてないけど……! あ、でももう時間だわ。ごめん、また話聞くから」
「うん。ありがとう、心配してくれて」
パンツスーツが似合う有希は立ち上がると、オフィスから颯爽と出て行った。
残された私はため息と共にパソコンの画面を見ながら、先ほどの二人の寄り添った姿を思い出す。二人は今どういう関係なんだろうか。考えると気持ちが暗くなる。
……ひとまず目の前にある企画書を完成させなくては。私は考えを振り払いながらキーボードを叩いた。
・・
私の会社はダイスエンジンという、IT企業にしては大きい三千人規模の会社だ。まだ十年目の会社だが年々規模を拡大している。
ゲームアプリを始め、様々なメディアコンテンツを手掛けている会社で、私の所属している部署はPR事業部。通常のCMとは異なり、リアルイベントを開催したり、TV番組とのコラボをしたり、企業の様々な広報的仕掛けを担当している。
私は企画営業チームの一員として、PR内容を企画立案し、それをクライアントに提案進行する業務を担当していた。
入社して四年目。新卒で入社してからこの部署に配属されてずっと企画営業をしているが、実のところは営業が大の苦手だ。
PR内容を企画するのは好きなのだけど、元来の内気な性格から初対面の人と話すのは得意ではない。
それでもクライアントとは関係を積み重ねて、なんとかやってきた、はずだった。
二カ月前に、小久保さんが入社してくるまでは。
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