旧友と家族のゴールデンウィーク。

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―藤町にしのside 「それで?何の用ですか?叶さん。」  父さんが部屋に帰ってきて、雑談を交えながら夕食を食べていると、突然叶さんが部屋にやって来た。叶さんは俺に話があるということでわざわざこの部屋まで来たらしい。  最初は父さんがドアの前で叶さんの対応をしていたが、父さんは叶さんが俺に用があるのだと知るとすぐに俺を呼んで、自分はさっさと部屋に帰っていった。多分、父さんなりに「友達と話すときに自分がいると話しづらいだろう」と考えて配慮してくれたんだろうけど、今はそんな配慮いらない。だって父さんの後ろから見えた叶さんの目が据わってて普通に怖かったし。  けれどそんなことを言ってもいられず、俺はいやいや外に出た。すると叶さんは無言で俺の方をじっと見てきた。  そんな無言に耐えきれずに放った言葉が冒頭のものだ。 「何の用かって?そんなの藤町君が一番よく分かってるでしょ?さっきのあれ、どういうつもり?」  叶さんは俺の言葉に少し苛ついたように答えた。俺はそんな叶さんの言葉に肩をすくめて言った。 「どういうつもりも何も。別に図ったわけじゃ無いですし、何も無いですよ。」  叶さんは俺の言葉を聞いても訝しげにこちら見つめてくるだけで、納得しているようには見えなかった。  内心でめんどくさ、と思いながら俺はその目を見つめ返した。 「…僕は別に藤町君が兄さんを抱きしめてたことに怒ってるんじゃないんだよ。僕を挑発するために兄さんの気持ちも考えず、兄さんに触れたことが許せないんだよ。 藤町君は兄さんのことが好きなんでしょ?なら、他人への挑発なんかよりも好きな人の気持ちを一番に考えるべきなんじゃないの?藤町君がやってることは、兄さんを傷つけることにしかならないんじゃないの? そんなことも考えられない奴が兄さんの側にいるなんて、僕は許せない。」  叶さんは俺に反論の隙も与えずそう言い切ると、言いたかったことはそれだけ、と言ってさっさと何処かへ行ってしまった。  廊下に一人残された俺は密かに爪が食い込むくらい拳を握っていた。  別にあれに叶さんへ挑発をしようという意図は無かった。ただ単純に聖さんに叶さんのところへ行ってほしくなかっただけ。  けれど、叶さんの言ったことは的を射ていた。確かに俺は聖さんがどう思うかを考えずに行動してしまった。付き合ってもいない男に抱きしめられる、というのは正直本人からすれば相当恐怖だ。謝ったとはいえ簡単に許されるものではない。 『好きな人の気持ちを一番に考えるべきなんじゃないの?藤町君がやってることは、兄さんを傷つけることにしかならないんじゃないの?』  叶さんの言葉が頭をよぎる。  ホント、その通りだね。俺は最低だよ。それでも…結果的に聖さんと叶さんが話さなくて済んだのを嬉しいと思ってしまっている俺がいるんだ。マジで終わってるよね。  俺はそんなことを考えて自嘲の笑みを浮かべた。 ―藤町にしのside end
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