旧友と家族のゴールデンウィーク。

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「…そうだね。気が向いたら、また話すよ。」  俺は叶君から目を逸らしてそう言った。  叶君の望み通り、俺のことを話しても別に何かが起こるわけじゃない。でも、まだ。俺にはそれを話す覚悟ができていないから。  叶君が今どんな顔をして何を考えているのかはわからないけど、多分俺が話そうとしないことに疑問を持っていると思う。  ごめんね叶君。今はまだ話せないけど、いつか絶対話すから。 「そっか。じゃあ気長に待ってるよ。」  叶君は俺の言葉に明るい声色でそう答えた。多分俺に罪悪感を抱かせないように気を使ってくれてるんだと思う。それなら今はその優しさに甘えていたい。きっと叶君は許してくれる。だから、大丈夫。大丈夫だ。 「…そういえば、叶君って母さんとはもう話した?」  俺は先程の話題から早く話を変えたくて、自分から叶君に話を振った。  すると叶君は俺の問いに少し戸惑いながら答えた。 「えっ?母さん?今日は特に何も話してないけど…何で?」 「母さんが心配してたんだ。叶君が学校のこととか友達のこととか、何も話してくれないからちゃんとやっていけてるのかって。 この前合宿があったばっかりだし、せっかくだから母さんに話してあげてよ。きっと喜ぶよ。」  咄嗟に思いついた話題だけど、一応もともと叶君に話そうと思っていたことだから、言葉はすらすら出てきた。  叶君は意外そうな顔をしていたけど、素直に俺の提案に頷いてくれた。 「…そうだね。最近は忙しくてあんまり母さんと話せていなかったし。また後で話してみるよ。」  叶君の返答を聞いた俺は少し安心した。早く話を変えたくて出した話題だったけどいゃんと俺も心配してたから。  そうして会話が一段落すると、冷たい風が吹いてきた。もう5月だけど、夜になるとまだ少し肌寒い。 「じゃあ、そろそろ俺は部屋に戻るよ。叶君も戻る?」 「あ、うん。少し寒くなってきたし、僕も戻るよ。」  流石に寒くなっきて部屋に戻ろうと思ってそう言うと、叶君もどうやら同じだったらしく、俺達は途中まで一緒に帰ることにした。  他愛ない話をしながら歩いて、俺の部屋の近くまで来た時、突然叶君が立ち止まった。  横を歩いていた叶君が立ち止まってしまったのでどうかしたのかと思って後ろを振り向くと、叶君が何だか深刻そうな顔をして立っていた。 「…兄さん。藤町君のこともだけどさ…。」  藤町君、という単語を叶君の口から聞いて俺は少しビクッとしたが、叶君は言葉を続けた。 「距離の近い男の人には気をつけなきゃ駄目だよ。じゃないと…。」  叶君はそこで言葉を切って俺の方に近づいてきた。え、と思ったが俺は動けず固まっていた。そんな俺との距離を叶君は容赦なく縮めてきて、遂にはほぼ0距離と言えるほど近くにまでやってきた。  近すぎて思わず目を閉じると、何かが頬に触れる感触がした。 「こういうことされちゃうからね?じゃ、おやすみ、兄さん。」  そう言い残して離れていく叶君を見ながら、俺の頭は大混乱だった。  ……い、今。叶君、俺に…。  キス、した…?  爆発してしまいそうなほど顔が熱くなり、恥ずかしくて俺はすぐに部屋に逃げ帰った。
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