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プロローグ
ある世界に何回も、何十回も、何百回も記憶を引き継いだまま転生する存在がいた。
その者の名前は今まで巡った人生の分、いや、それ以上あった。そのため、その者には統一された明確な名前が無い。
ただ、一番初めの人生で付けられた「リンネ」という名前は、最初の人生で付けられていながらも、何百の人生を歩み続けている彼を表す名前として最も相応しいものだったと言えるだろう。そんな「リンネ」という名前を彼自身も気に入っており、よく偽名として使っていた。
そんな彼、リンネはとにかく自分が面白いと感じることをするのが好きだった。そのため、どの人生においてもリンネは自分のやりたいことに片っ端から取り組んだ。
ただ、リンネが興味を持つことといえば、危険なことばかりだったため、リンネが満足いくまで自分のやりたいことを成し遂げたことは殆どなかったが。
……そんなリンネが314回目の人生を終えたあるとき。
リンネはある組織の幹部として、敵対する組織と銃撃戦を行っていたところで命を落とした。死んでしまったリンネは、真っ暗な闇の中にやって来ていた。
(…あ。…ここに来たってことは…。うわぁ………ドジったなぁ〜。)
毎回死んだときにリンネはこの真っ暗な場所にやって来る。
周りはおろか、自分の体すら見えず、もちろん動かせない。
いつも自身が死んだあとはしばらくそこで過ごし、ふと気がついたら他の人間として転生しているのだ。
ここに来るのももう314回目ということで、ここに来ることにはリンネも慣れていた。
(相手組織のやつをほとんど殲滅し終わったから帰ろうと思って歩いてたら、後ろから…とか。ツイてないな〜…。
後ろにいたのはうちの組織のボスだけだったし、まぁ、そういう事なんだろうけど。
あ~……最近のボス、なんとなく妙な感じだったから気をつけてはいたんだけどなぁ…。)
そんなリンネは自分が死んだことを理解した途端、今回の人生の反省をし始めた。
普通の人間ならもっと焦ったり、混乱しそうなところだが、先程言ったようにリンネにとっては314回目だ。反省会でもしていなければ、暇だということ以外に特に感じることは無い。面白いことが好きなリンネにとって暇というのは一番の敵だ。それを少しでも凌ぐための反省会だった。
だがそれもほぼ一瞬で飽きてしまう。
(あ~…暇だなぁ………。
毎回のこの待ち時間を耐えるのが辛いんだよね…。)
この場所にやって来たリンネには肉体が存在しないため、暇つぶしになることといえば考え事にふけることくらいしか無かった。
だがリンネはじっと考え続けることはしなかった。なぜなら先程までの人生を終え、ほとんど虚無の状態にあるリンネの考えることなど、自分がなぜ転生を繰り返しているのかくらいしかないからだ。人生に対する不安も、興味も、死んだ今、持つ意味はない。それに自分がなぜ転生しているのかを考えたところでわかるわけがないし、面白そうだとも思えない。
そのため、リンネはただじっと自分が次に転生するのを待ち続けた。
(…遅いな。)
ふとそう思った。いつもならもうとっくに転生している頃だ。ここは先ほども言ったように真っ暗で何も無い場所だ。なので時間はわからないが明らかに今までよりも転生するまでの時間が長い。
感覚だけでいえば、リンネがここに来てから一週間は優に超えているはずだ。
今まではここに来てから転生するまでの時間は、長くても二日ほどだった。
なぜこんなにも遅いのか?それはリンネにもわからなかった。
(もしかして、転生は前の人生で終わりだったのかな?)
不意にリンネはそんな考えに陥った。
(まぁ、あのときああしとけば…みたいな後悔なんて、あるようで無いからなぁ。いつも自分が面白いと思うことしかしてなかったし。)
だがリンネは先程の人生で最後だったという推測に特別焦ることも、惜しむ気持ちを抱くこともなく、本当にあっさりと今までの人生での後悔を手放した。
…いや、もとより持っていなかったようなものなので、手放す必要すら無かったのかもしれないが。
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