「嘘じゃない」

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「嘘じゃない」

私はこの店に勤め出してから、キャバクラには様々な接客方法、営業方法があると言うことを知った。 ミサのように、客と寝たり深い恋人同士のように接してみせる、色恋営業や本営、枕営業であったり、会話がとても面白く、客との時間を盛り上げ、楽しませることが上手なキャストのお姉さんが使う友営であったり。 でも、私には、真面目で一生懸命に、ひたむきに仕事に取り組む慣れない新人の振りをするか、客の好みの女を察して、媚びて褒めて場の雰囲気を良くするよう振る舞うか。 その結果、少しずつ色恋っぽくなって来てしまい、色恋営業へと変わってしまったそんな接客術か、の、その三つしか手札はない。 それ以外のやり方は、私には思いつかなかったし、上手く出来る自信もなかった。 「マネージャー、日曜は、一緒に行くんですか?」 「一緒に行くよ」 「何時くらいから、撮影?するんですか」 「スタジオの予約次第だから、決まったら俺から連絡するから」 「わかりました」 「他の、一度でもNo上位入りしてるキャストは、もうサイトに載ってるから。どんな感じで撮って欲しいか考えとくといいかもな」 「なんか全然思いつかないし、まだ嘘みたいなんですけど…」 私は正直に今の気持ちをマネージャーへと告げる。 だって私は、とてつもなく自己肯定感や自己評価が低くて、アイデンティティとやらも曖昧で、生きてる理由すらわからない。 そんな私がNo2になれただなんて、未だに頭がちゃんとついて行かない。 なのに、話だけはポンポンと進んで行くのだ。 私、店に貢献出来るキャストになれたんだ。 部長にも、マネージャーにも、こんなに褒められた。 それなのに、全く実感がわかないのは何故なんだろう。 以前の私は、もしもこんなことがあったのならば、嬉しい、幸せ、って、もっと思いっきりはしゃいで、さぞ喜ぶのだろうと、自分ではそう思ってたのに。 「嘘じゃないよ、うたこ」 「…あ」 マネージャーが身を乗り出して、煙草を灰皿に置くと、腕をこちらに伸ばし、大きな手のひらで私の頭をポンポン、と優しく叩く。 あの、前に見せてくれたような笑顔で。 ミサに向ける笑顔とは、きっと、ちょっとだけ違う笑顔で。 その時、初めてそう思えた。
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