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好き
また、私が嬉しくなるようなこと。
私が、喜ぶようなこと。
ううん、もっとたくさん、私を幸せにするようなことを、言ってよ。
私のこと、店に貢献できる大事なキャストとしてだけじゃなくて、普通の、ただの、私にするみたいにして。
「うたこがこんなに酔っぱらうの、珍しいな」
「酔っぱらったからじゃないです」
「へー」
「何それ」
「じゃあ、俺のこと好きだったんだな」
「そうですけど」
おんぶされてフロアを進む間、全然、なんでもないことのように、そんな会話をした。
そのままヘアメの部屋を通って、ロッカールームの前まで辿り着く。
ああ、もう着いてしまう。
まだ、言いたいことがあるのに。
聞いて欲しいのに。
どうしよう、私、本当はもの凄く酔っぱらっているのだろうか、調子に乗りすぎだろうか、こんなの、私じゃない。
私らしくない。
カッコ悪いな。
いっぱしのキャバ嬢なんかじゃなくて、これじゃあどっかの中学生の、ただの恋する女の子のようではないか。
「知ってたけどな」
「知ってたんですか」
「そりゃあ、わかる」
「どうして?」
「ほら、とりあえず着替えて来い」
「はーい…」
ロッカールームへ入ると、化粧ポーチから鍵を取り出して、自分のロッカーを開ける。
店によく着て来る、同伴する客が好みそうな、膝丈の白いタイトなワンピース。
胸元から襟刳りまでは花柄のレース仕様になっている。
腕をビッシリと埋め尽くしている自傷行為で出来た傷跡を隠す為に、上に淡いピンクの薄手のジャケットを羽織る。
カバンの中に化粧ポーチとハンカチと名刺入れを仕舞うと、酔いでふらつく脚をなんとかしつつ、帰り支度をしているであろうマネージャーの元へと急ごうとする。
今日の私は、なんだかおかしい。
それはわかっていた。
でも、どうにもならなかった。
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