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薄い肩
私はだいぶ店で眠ってしまっていたらしい。
もう真夜中は過ぎ去っていて、空はまだ薄暗いけれど、確実に朝方には近づいていた。
周りにある他の飲み屋や、同じようなキャバクラの店、スナックなどは閉まっていて、丁度店上がりにハシゴしているのであろうキャバ嬢とその客のアフター中の姿や、楽しそうに酔っぱらって歩いている若者や大人たちのグループなんかを少し見かけた。
それを見て、私がもし大学生や会社員だったならば、週末なんかは、あちら側に居たのだろうか、と、なんだか不思議な気分になる。
そんな、アルコール漬けの愉快そうな歓楽街を突っ切って、まだ営業中であるホストクラブの店員が客引きをしている中、私は何も話せずにただマネージャーの側を離れないようにして、タクシーを拾える場所まで二人で進む。
もう後数時間もすれば、会社へと出勤し、朝から夜まで仕事をこなして過ごす、一般的な昼の職種に就いている人々がこの道を埋め尽くすのだろう。
そんなことを考えながら、いつもタクシーを止める場所へと着くと、マネージャーが適当に腕を上げ、私に話を振ってくる。
「うちも中野だよ。秘密な」
「…そうだったんですね」
「ミサに言うなよ」
「なんでですか?」
「なんでも」
「秘密なんですね、わかりました」
タクシーはすぐに止まった。
マネージャーが、私に先に乗るように促したので慌てて車内に入る。
次にマネージャーがすぐ隣へと乗り込むと、行先を運転手へと告げる。
私はその「行先」をなんとなく覚えてしまって、ストーカーみたいで嫌だなあ、と自分のことを少しばかり嫌悪した。
道順を聞いていると、中野区の中野駅が一応は最寄り駅のようだと思われた。
私とミサは、最寄り駅は西武新宿線だったので、同じ中野区とは言え、家自体は多少距離がありそうだと思った。
ただ、私自身は中野の最寄り駅付近で遊ぶことが多々あった。
専門学校時代の友人が住んでいたのもあるし、所謂オタクグッズや同人誌が沢山売っている店があったりしたのだ。
今はよく知らないのだが、まだあるだろうか、中野ブロードウェイは。
私は結構なオタクでもあったので、店を上がって帰宅してからなかなか眠れない時などは、昼間くらいまでそこで同人誌漁りなんかをやっていた。
タクシーは、マネージャーが伝えた通りの住所へと私たちを送り届ける為に走り出す。
朝の5時前くらいだったと思う。
まだ、タクシーが深夜料金である時間帯だったことを覚えている。
私はやっぱり酔っているようで、その酔いはなかなかさめてくれなくて、だからきっとこれは夢なんじゃないかと思えて、焦ったり、怖いと感じたり、いけないことだと自分を律したりすることが段々と出来なくなっていた。
「コンビニ寄ってくか?」
「そういえば、マネージャーはご飯、食べないんですか」
「なんで」
「痩せてるから、ご飯食べない人かなって」
私みたいに。
ふと、そんなことを思ったまんま聞いてみた。
私はただ単に、偏食なのと、酒を飲んでいればお腹がいっぱいになるので食べない、と言う場合が多かったけれど、高校生の頃から摂食障害のような症状自体は続いていた。
でも、マネージャーは?
なんで、そんなに薄い肩をしているの?
私たち、同じ?
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